2018 05/23
都市の「政治学的想像力」

(第18回)再開発!

高層ビルと低層住宅が並び、新たな工事が進む。右は新築の小規模な集合住宅。

バンクーバーは移民が非常に多い都市であり、近年は住宅不足が深刻な問題になっています。当連載でも取り上げたとおり賃貸住宅市場はひっ迫しており(たとえば、第3回)、住宅価格もこの数年特に高騰しています。それに対してブリティッシュコロンビア州政府やバンクーバー市政府は、非居住者の住宅購入に課税したり、人が継続的に住んでいない住宅に対して空き家税を新設したりと対応してきました。最近では、高騰し過ぎていた家族向けの一戸建て住宅の価格が多少下がっているという報道もありますが、他方で一般の人にとってまだ現実的な価格だった集合住宅は引き続き上昇しています。

住宅不足、住宅価格の高騰に対して、課税のように需要を抑える政策手段と並んで重要なのが、住宅の供給量を増やすことです。バンクーバーでは、これまで良好な住宅地を維持するために、一戸当たりの敷地に求められる最低面積の水準が高かったのですが(第4回)、その規制を変更して住宅を増やすことが進められています。より具体的に言えば、一戸建てをつぶして集合住宅を作り、住宅の戸数を増やすような再開発を行っています。

中でも、現在私が住んでいる「キャンビーストリート(Cambie street)」という通りは、再開発が最も活発な地域といえます。なぜなら、2010年のバンクーバーオリンピックを前に、この通りにそってバンクーバー国際空港(YVR)とダウンタウンを結ぶスカイトレインが開業し、その後は通り沿いの建築規制が大幅に緩和され、高層の集合住宅の建設が可能になったからです。繁華街から離れた一戸建てが並ぶ地域で、新たにできた駅から近いエリアは、交通の便もよくて住みたい人が多いのです。

複数の住宅の敷地がまとめられている様子。同じ代理人が担当しているようだ。

再開発にあたっては、一軒の一戸建て住宅の敷地を使って集合住宅を建てることもありますが、それでは規模が小さいのであまり戸数を増やすことができません。そこで、複数の住宅の敷地をまとめて(Land assembly)、大規模な集合住宅を建てられるような土地の用意が重要になります。ディベロッパーは大規模な開発利益を得ることができますし、売る側としても、その開発利益を見越して一戸だけで売るときよりも高い値段で売るように交渉できます。隣近所でまとまって代理人を立て、ディベロッパーと交渉するわけです。

近くで用途変更を伴う開発があるときには、市から説明会のハガキが来ます。

ただし、土地をまとめる算段がついて、いざ高層の集合住宅を建てようとしても、ディベロッパーが勝手にできるわけではありません。一戸建てから集合住宅へと用途を変えるときには、周辺地域に住む人たちへの説明の機会を設けなくてはいけないのです。ここで反対運動が活発になると、市によって集合住宅の建設を認めてもらえないという事態も生じます。つい最近でも、ダウンタウンに近い古くからのチャイナタウンで高層ビルを建てる計画に反対運動が起きて、市に認可されなかったという事例があります。とはいえ、私の住んでいるエリアではみんな再開発にかかってそこから莫大な利益を得られる可能性があるので、目立って反対運動が起きているわけではありませんが......。

現在、私自身は、おそらくもうすぐ取り壊されるだろうという築60年くらいの住宅に住んでいます。2017年末に引っ越さなくてはいけなくなり、賃貸住宅市場がひっ迫する中で何とか探したところです。貸し手の側にも、いつ開発が始まるかわからないので、短期で移る(日本に帰国する)ことがわかっている人間の方が貸しやすい事情があったようにも思います。帰国したのち、またバンクーバーに来たときには、すっかり景観が変わっているのだろうなあと思うと複雑な気分もありますが、それが成長する都市ということなのかもしれません。

砂原庸介(すなはら・ようすけ)

1978年大阪府生まれ。2001年東京大学教養学部総合社会科学科卒業。日本学術振興会特別研究員、大阪市立大学准教授などを経て、現在、神戸大学法学部教授。博士(学術)。専門は政治学、行政学、地方自治。著書に『地方政府の民主主義』(有斐閣)、『大阪―大都市は国家を超えるか』(中公新書、サントリー学芸賞)、『民主主義の条件』(東洋経済新報社)、『分裂と統合の日本政治』(千倉書房、大佛次郎論壇賞)。共著に『政治学の第一歩』(有斐閣ストゥディア)などがある。