2018 06/13
私の好きな中公新書3冊

時代を超えて誰が読んでも面白い名著/高野秀行

服部正也『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』
会田雄次『アーロン収容所 改版 西欧ヒューマニズムの限界』

「時代を超えた名著」は意外にたくさんあるが、学術的・文学的・歴史的に高度な教養やその分野の専門知識を要する内容であることが多く、一般人はなかなか気軽に手を出せない。では「時代を超えて、なおかつ誰が読んでも面白い名著」というのはあるのか。これはごくごく限られる。

中公新書では私がこれまで読んだ中で、今のところ二冊ある。

服部正也著『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』。日本銀行に勤めた著者が、1965年にアフリカの小国ルワンダに中央銀行総裁として派遣され、銀行業務のみならず、国の経済まで立て直していくという痛快無比な体験記だ。

会田雄次著『アーロン収容所 改版』は第二次大戦中、ビルマ戦線で英軍の捕虜になった著者が歴史家の冷静な目を通してイギリス人と日本人の文化のちがいを鋭く見抜く。「日本軍兵士がなぜ捕虜を虐殺・虐待しやすいのか、それはヨーロッパ人のように何百頭もの家畜を手際よく管理する経験や習慣がないからではないのか」という考察はあまりに根源的で今読んでも戦慄が走る。

どちらも五十年以上前に書かれた本だが、古さを全く感じさせない。そして深い知的感動と「面白い本を読んだ!」というカタルシスの両方が得られる名著だ。

もう一冊は思い浮かばない。もちろん、面白い本、いい本はいくつもあるが、上の二冊が突出しすぎていて、並列できないのである。

高野秀行(たかの・ひでゆき)

1966年生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。近著に『恋するソマリア』(集英社文庫)、『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』(清水克行と共著、集英社インターナショナル)。
主著『アヘン王国潜入記』『巨流アマゾンを遡れ』『ミャンマーの柳生一族』『未来国家ブータン』(以上、集英社文庫)、『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)など。『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で第1回酒飲み書店員大賞を、『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)で第35回講談社ノンフィクション賞、第3回梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。