2017 12/19
都市の「政治学的想像力」

(第13回)雪の(たまに)降る町

自宅前の歩道の除雪は条例で決められていますが、きちんとやる人もいれば、やらない人もいます。

昨年(2016年)のバンクーバーは非常に雪が多く降りました。よく東京は雪に弱いと言われますが、バンクーバーも相当雪に弱いです。緯度は北海道よりも高いのですが、普段それほど雪が降らないので備えが十分とは言えません。東京と同じように、特に交通関係の影響は大きくて、雪が降ると頻繁に交通事故が起こるようで、テレビでは連日事故の報道がありましたし、バスが動かなくなることもしばしばでした。

一度、雪の中あまりにもバスが来ないので、仕方がなく近くにあったシェアカー(前回参照)で帰ろうとしたことがあります。しかし、大雪でシェアカーが埋まってしまい、フロントガラスに積もった雪は手で何とかとれるのですが、タイヤが雪で空回りして動けないという状態に陥ってしまいました。一人で車を押したりしてみたもののうまくいかず、途方に暮れていた時に、たまたま近くを通りがかった二人組の男性が助けてくれて何とか出ることができました。見ず知らずの人の親切は本当にありがたいです。

とにかく車を出すのに必死で、助けてくれた二人の男性とは十分に話もできず、彼らが実際そうなのかはわからないのですが、バンクーバー市では、地域の雪かきをしたり、この時の私のように雪で動けなくなった人などを助けたりする、Snow angelというボランティアを呼び掛けていました。バンクーバーには、市の情報を取得したり、ごみ収集の要請をはじめとして市への様々な要望を伝えたりするためのVanconnectというアプリがあるのですが、そのアプリではSnow angelへの応募とともに、困った人からの応援要請も可能でした。

日本でもバンクーバーでも、雪という自然現象に対して、住民の無償奉仕に頼ることは少なくありません。Snow angelはその一つの例です。ただ、バンクーバーで興味深いのは、あらかじめ決められている無償奉仕があるところです。たとえば住宅の所有者は、次の日の朝10時までに自宅前の歩道の除雪をしないといけないという条例があります。もちろん、条例で決まっていても中には雪かきをしない人や、空き家でできないこともあるので、上の写真のようにまだらになることもあります。

ただし、きちんと除雪しないとそれなりに高い罰金(規定では750-2,000CAD[カナダドル])を払うことになります。実際に市がどの程度監視して、罰金を取ろうとするのかはよくわかりませんが......。他方で、みんなが自分の家の前の除雪だけをするので、交差点のところに雪がたまってめちゃくちゃ歩きにくい、という事態も生まれてしまいます(下の写真)。

足も取られやすくなっており、かなり歩きにくい交差点

日本の場合、住宅周辺の雪かきについては特に法律や条例で規定されているわけではありません。なので、基本的には住民が自発的に雪かきをするということになります。マンションなどの場合には、管理会社が雪かきをするという考え方もあり得ます。しかし、管理会社の業務として雪かきを委託していなければ、言い換えると支払っている共益費に雪かきが含まれていなければ、基本的には住民が自分たちで雪かきをしなければなりません。

移民が多く、人々の雪に対する接し方が多様になりがちなバンクーバーでは、罰則も含めて法律で除雪を定めているのに対して、住民の同質性が高く自発的な協力を期待できる日本の場合には明文での規定は行わないということでしょう。とはいえ、日本でも近隣の付き合いが減ってくれば、法律や条例による規定が必要になる日もくるのかもしれません。

砂原庸介(すなはら・ようすけ)

1978年大阪府生まれ。2001年東京大学教養学部総合社会科学科卒業。日本学術振興会特別研究員、大阪市立大学准教授などを経て、現在、神戸大学法学部教授。博士(学術)。専門は政治学、行政学、地方自治。著書に『地方政府の民主主義』(有斐閣)、『大阪―大都市は国家を超えるか』(中公新書、サントリー学芸賞)、『民主主義の条件』(東洋経済新報社)、『分裂と統合の日本政治』(千倉書房、大佛次郎論壇賞)。共著に『政治学の第一歩』(有斐閣ストゥディア)などがある。