- 2017 11/21
- 都市の「政治学的想像力」
前回紹介したように、バンクーバーは比較的公共交通が発達していますが、もちろん多くの人が自動車を所有し、利用しています。ただ、車を持つにはいろいろお金がかかります。本体の価格はもとより、維持費としても保険代、ガソリン代、場所によっては駐車場代がかかることもあります。バンクーバーでは家の前の道路に駐車することが許されているので、住宅地域では基本的にスペースさえあれば駐車場代は要らないようですが、ダウンタウンなどスペースのないところでは費用がかかります。持っていない私には、よくわからないところも多いですが。
私たち家族のように、バンクーバーに住んでいるものの自動車を持っていない人でも、シェアカーを使うことは可能です。そして、バンクーバーはそのしくみが発達している都市だと言えるでしょう。世界のさまざまな都市で事業を展開する大手事業者である「Zipcar」や「Car2go」だけでなく、バンクーバーを中心とした「Evo」や「Modo」といった多様なシェアカーのサービスがあります。たとえばCar2goなどの場合は、一度登録すれば、バンクーバー以外でも、トロントなどカナダの都市だけでなく、ニューヨークやシアトルといった北米の大都市などでも車を利用できます。
ZipcarやModoの場合は、決められた駐車場に決められた車が置かれていて、利用者はあらかじめインターネットなどで特定の車を予約したうえで利用し、終わったら元の駐車場に戻すというしくみになっています。日本で導入されているシェアカーのしくみと似たようなものと言えるでしょう。
それに対して、私自身もよく利用しているCar2goやEvoの場合には、特定の駐車場に決まった車が置かれるわけではありません。「ホームゾーン」と言われるバンクーバー市を中心とした地域であれば(市外の一部駐車場なども含まれます)、市民が駐車場として利用している住宅の前の道路など、有料の駐車場を利用しないといけないところ以外では、基本的にはどこにでも駐車できます。写真はスマートフォンの画面ですが、青い太線がホームゾーンの境界を示していて、「evo」と書いてあるポップアップが駐車されている場所を示しています。サービスに登録している人であれば、スマーフォンが示す位置に駐車されている自動車を利用することができるわけです。
サービスを利用するときには、会員カードも使えるようですが、基本的にはスマートフォンを使います。スマートフォンの位置情報を利用して、使いたい車に近づいてロックを解除すれば簡単に使えるわけです。利用料は、Car2goの2人乗りスマートがだいたい1分30円、Evoのプリウスが1分40円弱ですが、1時間・1日という単位で割安になるように設定されています。燃料を入れる必要もないので、ちょっとした移動だけではなく、2泊3日でキャンプに行ったりしても、レンタカーを借りるよりも安いということがあります。
このような自動車のシェアは、人口が集中する地域だからこそ成り立つサービスです。ホームゾーンなら、たいていはどこにいてもすぐ車を使えますし、駐車してもまたすぐ誰かが利用するという循環がうまく回るからです。これが隣接する郊外の自治体だと、住民の大半が自動車を持っているので、車までの距離が非常に遠かったり、一度駐車された自動車がなかなか動かなかったりするでしょう。もちろん、前提として自動車をかなり自由に路上駐車できるという条件が必要です。そのおかげで住宅地の道は路上駐車だらけで一車線になっていることが多くなるという問題もあります。
日本でも、政府の「未来投資戦略2017」の中で、シェアリングエコノミーが地方自治体の行政課題を解決する重要な施策であると位置付けられています。日本には人口が密集した都市が多く、またスマートフォンも普及しているので、このようなシェアカー事業は有望ではないかと思いますが、当然ですが路上駐車に関する規制などが大きな壁となるのでしょう。個人的には、バンクーバーと比べると、公共交通を中心としたハードのインフラストラクチャーは日本が進んでいることを実感しますが、このサービスだけは本当に便利だと痛感しているので、規制の壁を「特区」のようなかたちで乗り越えて実現できると面白いなあと思うのですが。