2017 12/15
私の好きな中公新書3冊

最新の研究成果をわかりやすく伝える/河西秀哉

今谷明『室町の王権 足利義満の王権簒奪計画』
吉見俊哉『博覧会の政治学 まなざしの近代』
古川隆久『昭和天皇 「理性の君主」の孤独』

私が最初に中公新書に出会ったのは、高校の古びた図書室であった。中公新書と岩波新書は毎月買いそろえられ充実していた(今思えば、教養を重視した見識ある先生たちである)。

そこで手にとって特に興味を持ったのが、今谷明『室町の王権』。室町幕府の将軍であった足利義満が、軍事力・経済力を背景にしながら武家や公家・寺社を支配し、より強大な権力を得ていく姿を政治史的に描いた本である。義満は明から「日本国王」の称号を与えられ、次第に王権を簒奪しようと計画する。しかし彼の死でそれは頓挫し、以後天皇権威は復活、天皇制が以後も継続することとなった。『室町の王権』は史料に基づきながらその過程を大胆に提示しており、これが歴史学なのかと感じ、それをより学びたくなった。

私が大学に入った頃、歴史学では近代国民国家を批判する動向が強く、他の学問の影響も大きく受けていた。その中で出会った吉見俊哉『博覧会の政治学』は、社会学の立場から博覧会という近代的装置が果たした意味を明らかにする。消費文化・大衆娯楽という側面だけではなく、国家としての統合機能、帝国主義の力学を人々に見せる役割を博覧会は果たしていた。その様相を描き出す本書の鮮やかさは、私にとってとても魅了されるものだった。

その後、運良く研究者となったのだが、そうすると多くの読書が「仕事」となり、本との出会いも感銘を受けることが少なくなってしまった。しかし、古川隆久『昭和天皇』は別である。昭和天皇に関する研究は史料公開が進んだこともあり、相当に進展し成果の蓄積が重ねられている。その分、それぞれの解釈が独特となり、細分化して読むのが正直大変な分野である。古川はそうした研究成果を手際よく取り入れながら史料を丁寧に分析し、思想形成の段階から昭和天皇のあゆみを検討する。そして彼を「理性の君主」と捉えた。新書は、最新の研究成果をわかりやすく世に伝えるものだと思う。『昭和天皇』はその意味で、まさに新書の王道を行く本であった。

私自身も、いつかそのような新書を書いてみたい、そう思う3冊である。

河西秀哉(かわにし・ひでや)

1977年生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期修了。博士(歴史学)。現在、神戸女学院大学文学部准教授。著書に『明仁天皇と戦後日本』(洋泉社)、『うたごえの戦後史』(人文書院)など。編著に『戦後史のなかの象徴天皇制』(吉田書店)、『平成の天皇制とは何か』(岩波書店、共編)などがある。