- 2017 09/11
- 著者に聞く

「土地は資産」と日本では語られてきました。しかし、一部の都心の土地を除けば、いまや「『負』動産」とも呼ばれる時代に。相続放棄も増え、使いようのない土地の行き場がなく、さらには所有者さえわからない土地が増えています。『人口減少時代の土地問題』の著者・吉原祥子さんに聞きました。
――発売から1ヵ月ほど経ちました。重版も出来し、反響はいかがですか。
吉原:土地問題はとても地味なテーマだと思うのですが、幸い、さまざまな方面の関係者からコメントや感想をいただいています。
メディアでは、発売してすぐに『日本経済新聞』『サンデー毎日』などの書評欄で取り上げていただき、東洋経済オンラインや『週刊エコノミスト』、『月刊Wedge』などから寄稿依頼もいただきました。正直、反響の大きさに少し驚いています。
この本では、土地の「所有者不明化」問題をはじめとする土地問題について、実態と全体像をわかりやすく描くことを目指しました。それが少しでも読者に届いたとすれば本当に嬉しいです。
――そもそも、なぜ土地問題に関心を持ったのですか。
吉原:もともとは、外資が日本の森を買っているという問題がきっかけです。所属している東京財団内で研究プロジェクトが立ち上がり、まずは実態を調べはじめました。
私は土地の売買や利用については、行政がきちんと把握しているとばかり思っていました。たしかに、不動産登記簿や農地台帳など目的別の台帳はありました。しかし、内容や精度はさまざまで、情報を一ヵ所で把握できる仕組みがない。
そこから、土地制度に根本的な課題があると考えるようになり、次第に研究の焦点が土地問題へと移っていきました。
――土地の「所有者不明化」を調べていて、驚いた経験などありますか。
吉原:ある森林組合で、所有者が資料の面積欄に「実面積は約7万平方メートル位あると思っています。地籍調査が終わっていないため登記簿面積は2977平方メートル」と書いているのを見たときです。
日本では地籍調査という、土地の区画ごとに所有者、用途、面積、境界などを確定する事業が、対象面積の52%、つまり半分程度しか進んでいないのです。正確な地図の整備自体が完了していないのです。
そのため、登記簿上の記録と実面積が異なることが珍しくありません。「所有者不明化」の根本にはこうした制度上のさまざまな課題があるのです。
――九州の面積を超えた所有者不明の土地。自治体も引き取りを拒否とのことですが、どこに相談するといいのでしょうか。
吉原:「空き家バンク」や「空き地バンク」が注目されていますが、万能ではありません。残念ながら、「ここに相談すれば解決する」というところは、現時点ではないと思います。地域の特性に応じた土地の「受け皿」をつくっていくことが急務です。
私は以前、ある地方自治体の担当者の方から言われた、「要らない土地の行き場がないんです」という言葉が忘れられません。生活や生産の基盤である土地に対し、要らない、手放したい、けれど行き場がないという指摘は、とても重たいものでした。
――欧米や韓国などでは解決済みですが、なぜ日本だけがこういう状況なのでしょうか。
吉原:不動産登記制度のあり方、地籍調査の遅れ、所有権の強さなどが複合的にからまってこうした状況が生まれていると考えます。
ただ、ほかの国も完璧な制度というわけではありません。今後、ほかの国々、とくにアジアの国々で少子高齢化が進めば、もしかしたら、いまの日本と同じような土地問題が起きてくる可能性もあると思っています。
――これからの新しい調査・研究などについて教えてください。
吉原:土地問題への関心は徐々に高まっていますが、法的課題の整理や改革の方向性の議論は、まだまだこれからだと思います。今回は横断的に課題を整理しましたが、今後はより具体的な制度論などに踏み込んでいければと思っています。
――最後に、学生時代は東京外大でタイ語を専攻し、タイへの留学経験もあるようですが、おすすめのタイ料理と、コリアンダー嫌いの人が好きなるこつがあれば是非に。
吉原:カオマンカイです。鶏スープで炊いたご飯にゆで鶏をのせ、甘辛いタレをかけていただくもので、鶏の旨みが凝縮された料理です。
バンコクで暮らしていた当時、これが町の屋台で数十円で食べられることに感動していました。コリアンダーをたっぷり添えるのがポイントです。カカオマンカイを食べれば、コリアンダーのおいしさがきっとわかるはずです!