2017 07/12
著者に聞く

『自民党―「一強」の実像』/中北浩爾インタビュー

データやインタビューを駆使して、自民党の選挙、派閥、政策決定プロセスなどを浮かび上がらせた話題作『自民党―「一強」の実像』。本書は、どのような狙いと背景から書かれたのか? そして、7月の都議選における自民党大敗をどう見ればいいのか? 著者の中北浩爾氏にうかがった。

――本書を執筆しようとしたきっかけは?

中北:3年ほど前、自民党の歴史を分析した『自民党政治の変容』(NHKブックス)を出版しました。それ以来、新聞記者の方々が紹介してくれて、何人かの自民党本部の関係者と親しくなったのですが、彼らから聞く自民党の内情は、知らないことばかり。

それで、ふと気がついたんです。我々政治学者の自民党論は、佐藤誠三郎・松崎哲久『自民党政権』(中央公論社、1986年)の域にとどまっていて、それ以降の自民党論は従来のあり方が崩れたと主張しているだけだ、と。

その頃、安保法制にみられる安倍政権の政治手法をめぐって、自民党批判が高まっていました。極端なものは、ファシズムと断罪したり。自民党の現状をなるべく冷静かつ客観的に示すことが、政治学者の役割として必要だと思ったのです。

――執筆の上での苦労についてお聞かせ下さい。

中北:相当な数のインタビューを重ねました。貴重な時間を割いていただくし、コーヒーなどを出してくれることも多いから、必ず手土産を持っていきますね。二階俊博幹事長が言うように、“GNP”、義理、人情、プレゼントは大切でしょう。

新聞記者と会話すると、いつも意見が一致する点ですが、自民党は基本的に親切でウェット。合理主義の民主党・民進党とは違う。それが自民党の力の源泉の一つだと思います。この点で公明党も似ている。だから、大変だったけれど、楽しかったですね。

ひたすら大変だったのが、客観性を担保するために不可欠な数量データの作成。大学院生や学部学生のアルバイトと二人三脚で進めましたが、最終段階まで手こずりました。繰り返しチェックしたので、誤りがないことを祈るばかりです。

――このご本で特に注目して欲しい所は、どこでしょうか。

中北:自民党が抱える逆説性や二面性です。かつて「党中党」であった派閥が弱体化し、現在は上意下達機関化しているとか、族議員を跋扈させていた事前審査制が、現在では党議拘束を通じてトップダウンの手段になっているとか。

国政選挙についても、小泉首相は無党派層の支持を調達して勝利したけれども、現在の安倍首相は低投票率のなかで支持基盤を重視して四連勝している。2009年の政権交代は小泉路線から離れたから起きたという説もありましたが、そう単純ではありません。

確かに数字からいえば、固定票よりも浮動票の方が重要ということになります。今でも小泉さんは「50万票もない電力総連を切って5000万の浮動票をとれ」みたいなことを盛んに言っていますが、それとは別の政治的リアリティもあります。

――都議選での自民党大敗を受けて、何が原因だったと思いますか。

中北:拙著でも強調したように、個人後援会や友好団体といった自民党の支持基盤は確実に弱っています。だから大きな逆風が吹き、無党派層の支持を集める政治主体が登場すれば、意外と脆い。それが露見したということだと思います。

ここ20年間弱、支持基盤の弱体化を補ってきたのが公明党です。今回の都議選では、公明党が小池都知事率いる「都民ファーストの会」と手を組みました。これも自民党に大きな打撃を与えたとみています。

その一方で、大都市で無党派層が圧倒的に多い東京は日本で例外的な地域だ、ということを認識する必要があります。全国的には自民党の支持基盤は強固です。だから、「選挙ファースト」の公明党は、国政選挙では自民党と引き続き協力するでしょう。

――今後、自民党はどうなっていくと思いますか。

中北:政治は偶発性に左右される要素が高いので予想は困難ですが、都議選の結果、安倍政権は揺らぎました。首相と側近を直撃する疑惑や失言が相次ぎ、内閣支持率も下がり、前途多難です。でも、国政では与党の結束が固いし、何より民進党などの野党が低迷している。立て直す余地もあるとみています。

安倍政権を超えて、自民党についてみると、さらに強い。ある自民党関係者が、都議選の前に言っていました。「今回は大敗しても、次は必ず戻す。それが自民党の力だ」と。自民党の地域での支持基盤の分厚さは、他党を圧倒しています。

公明党としっかり手を組んでいる限り、自民党は当面、日本政治の主軸であり続けると思います。確かに、2009年の政権交代選挙のように、猛烈な逆風が巻き起これば、吹き飛ばされてしまいます。けれども、それも間欠泉的なものでしかあり得ないでしょう。

――これからの研究について聞かせて下さい。

中北:もう少し日本政治の現状について研究を進めたいですね。政治資金のこととか、政党でも公明・共産両党など、実証的な研究が不十分で自分自身も知りたいことが、まだまだありますから。

でも、いずれ本業の歴史研究に戻りたい。通史を書くというのは研究者の使命のようなものですが、バブル世代としては、あの日本が最も華やかなりし時代が何だったのか、それを明らかにしたいという個人的な思いがあります。

今回執筆してみて、中公新書の素晴らしさがよく分かりました。学問的な水準を保ちつつ、これだけ多くの読者の関心に寄り添える媒体は、他にはありません。「その発言って、自民党的GNPですか?」って。いや本音です。また声をかけてくださいね。

中北浩爾(なかきた・こうじ)

一橋大学大学院社会学研究科教授。1968年三重県生まれ。91年東京大学法学部卒業。95年同大大学院法学政治学研究科博士課程中途退学。東京大学博士(法学)。大阪市立大学助教授、立教大学教授などを経て2011年より現職。専門は日本政治外交史、現代日本政治論。著書に『現代日本の政党デモクラシー』(岩波新書)、『自民党政治の変容』(NHKブックス)、編著に『民主党政権とは何だったのか』(岩波書店)などがある。