2017 07/14
私の好きな中公新書3冊

視野を広げるきっかけ/福岡沙織

長有紀枝『入門 人間の安全保障 恐怖と欠乏からの自由を求めて』
市川伸一『考えることの科学 推論の認知心理学への招待』
田澤耕『物語 カタルーニャの歴史 知られざる地中海帝国の興亡』

読み応えがあって、資料性が高い。データー量が多い為、年月を重ねても当時の研究・状況を掴みやすい――店頭でお客様に中公新書全体を紹介する際には、そう伝えています。帯の文句につられて手に取り、まえがきのわかりやすさに気軽に読み始め、内容の重さに毎回してやられる。私もそんな読者の一人です。執筆の依頼を受けて、新書の棚を見返しました。好きな内容、思い入れのある本が多く、なかなか選ぶことが出来ませんでしたが、ご紹介したいのはその中でも、自分の視野を広げてくれた3冊です。

『入門 人間の安全保障』は、国連開発計画(UNDP)が1994年に提唱した人間一人ひとりを対象とする安全保障について、実践的なアプローチに重点を置いて論じられています。先進国でも厳しい状況に置かれた人々がいることを、日本の東日本大震災に触れた章を読む度に実感します。

すぐ活用できる知識と、いずれ役に立つ知恵。『考えることの科学』は後者にあたる本です。新書は専門書の入口だと思い起こさせてくれる1冊。第3章は身近な例も多く、人の「こうあって欲しい」という思いが論理的な思考を歪めてしまうことを明快に指摘していて、身につまされます。

「中公新書で題目に"物語"とつくものは、物語の形を取っているけれど内容が濃い」と職場で同僚に教えてもらってから、刊行を楽しみにしています。特にスペインの自治州の1つ「カタルーニャ」に焦点を当てた『物語 カタルーニャの歴史』は、「ほかの物語シリーズは国を扱うものが多いのに、一地域だけなのはどうして?」という疑問に濃密な物語でこたえてくれました。

福岡沙織(ふくおか・さおり)

書店員。2008年、丸善ジュンク堂書店入社。池袋本店勤務9年目。担当ジャンルは文庫、新書。