- 2017 04/17
- 私の好きな中公新書3冊
高坂正堯『国際政治 恐怖と希望』
岡崎久彦『戦略的思考とは何か』
清水真人『財務省と政治 「最強官庁」の虚像と実像』
評伝や歴史ものに定評のある中公新書だが、第一線で活躍する様々なバックグラウンドをもつ著者が同時代と向き合った作品が、現在まで数多く読み継がれていることも魅力である。出版や新書をめぐる環境が変わるなかで、孤塁を守り続けているのは心強い。
高坂正堯『国際政治』は1966年の刊行。米ソ両超大国が対峙する冷戦下の国際政治を、力・利益・価値の3つの体系という視座から32歳の若き研究者が読み解いた著作だが、その確かな議論の射程は、18世紀のヨーロッパから、「冷戦後」という時代がどうやら終わったことが確実な21世紀の現在まで届くものである。
1983年に刊行され、新冷戦の到来という時代状況を色濃くにじませる岡崎久彦『戦略的思考とは何か』は、日本の置かれた地理的環境と軍事力の果たす役割を基礎に、日本の採るべき「戦略」について透徹した考察をしている。現職の外務省幹部(調査企画部長)が書いたとは思えないほどに率直な筆致で貫かれているのも印象的である。先ごろ中公文庫から刊行された永井陽之助『新編 現代と戦略』と併せて読むことをお薦めしたい。
2冊とも時の流れを感じさせる部分はあるが、長く活躍した2人の思考のエッセンスが詰まっている。そして、同時代と向き合いつつ、歴史を鑑にしている点も共通する。それゆえ、読むたびに新たな発見があり、時代の変化を考える際には道標となる。国際情勢が激動のなかにある時に改めて読みたくなる著作である。
最近刊行されたなかでは、清水真人『財務省と政治』を繰り返し読むことになりそうだ。新聞記者としての豊富な取材経験に裏打ちされた、濃密かつ読みやすい平成政治史の叙述も印象的だが、それだけでなく学術的な成果も押さえていることが深みを加えている。政治と経済の密接な関係、政策と政局の絡み合い、そして政官関係の冷静な観察は、時代を超えて日本政治を考える際の出発点となるだろう。