2016 12/15
私の好きな中公新書3冊

「中国を知る」ための本棚/安田峰俊

三田村泰助『宦官 改版 側近政治の構造』
福本勝清『中国革命を駆け抜けたアウトローたち 土匪と流氓の世界』
岡本隆司『中国の論理 歴史から解き明かす』

中国ライターとしての立場から、私はこの3冊(プラスアルファ)を推したい。

昨今、いわゆる「中国本」は世間に数多くある。だが、現在の中華人民共和国の表面的な事象のみから、膨大な人民が紡いだ数千年の歴史の蓄積を持つ国を理解したつもりになるのは、実はとてもあぶない。現代ニュースを読み解く場合でも、過去の事例への目配りこそが、一歩先を読み解く武器になる。

三田村泰助『宦官』は、同じく中公新書所収の宮崎市定『科挙』とともに、私が大学時代に東洋史(中国を中心としたアジア史)を専攻した際に真っ先に読まされた古典的名著だ。いずれも長年(宦官は数千年、科挙は千数百年)の歴史を持つ中国史上の奇習だが、実は二〇世紀前半まで存在した現代の事象でもある。中国の「ヘンな存在」や「不思議なシステム」を学問的に誠実な姿勢で眺め、確かな事例の積み重ねを通じて考察していく姿勢は、いまの世の中だからこそ学ぶべき部分がいっそう多い。

『中国革命を駆け抜けたアウトローたち』は、中国共産党の表向きの革命史にはほとんど出てこない話の連続だ。中国の庶民社会に(前近代のみならず現代もなお)濃厚な伏流として存在する『水滸伝』的な義侠の感覚や、迷信的なアンダーグラウンドの秘密結社への親近感が、中国革命にあたえた影響を説く。近年の中国で、インテリ主導の民主化運動が挫折を繰り返している本当の理由は、本書を読めば大体のところが了解されるだろう。

近ごろ出版された『中国の論理』は、上記のような歴史への視点と、昨今の日本人を戸惑わせている現代中国の姿との接続を試みた一冊だ。昔といまを結び付け、目の前の中国を多角的に理解する行為は、定期的な訓練とアップデートが欠かせない。それを提供してくれるのが、中公新書におさめられた歴代の「中国本」たちである。

さあ、お馴染みの緑の表紙を開いて中国を知ってみよう。

安田峰俊(やすだ・みねとし)

1982年滋賀県生まれ。ルポライター、多摩大学経営情報学部非常勤講師。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。在学中、中国広東省の深セン大学に交換留学。一般企業勤務を経た後、著述業に。アジア、特に中華圏の社会・政治・文化事情について、雑誌記事や書籍の執筆を行っている。著書に『知中論』(星海社新書)、『境界の民』(角川書店)、『野心 郭台銘伝』(プレジデント社)などがある。