2016 11/09
著者に聞く

『現代日本外交史』/宮城大蔵インタビュー

戦後アジアの国際政治とその中での日本の役割について、精力的に研究を進めてきた宮城大蔵さんが、新著『現代日本外交史』を刊行した。1991年の湾岸戦争から四半世紀にわたる、冷戦後の日本外交を一望に収める意欲的な作品だ。研究者にとって一筋縄でいかない同時代史を書き切った宮城さんに聞いた。

――執筆のきっかけは橋本龍太郎元首相へのインタビューだったそうですね。

宮城:橋本氏の逝去後に、その本(『橋本龍太郎外交回顧録』)の解題を書くことになりましたが、ご本人の発言を検証する必要も出てきます。そこで橋本氏の外交活動を自分なりに理解しようと試行錯誤するうちに、自然と冷戦後日本外交の勉強になってしまったところがありますね。湾岸戦争での蔵相や、首相としての普天間基地返還合意など、まさに盛りだくさんでしたから。普天間返還合意をめぐる「謎解き」は、膨張して結局もう一冊の本になりました(『普天間・辺野古 歪められた20年』)。

――海部政権から第2次安倍政権まで、四半世紀の現代史が描かれているわけですが、近過去の時代ゆえの難しさはありましたか?

宮城:この本は書き始めてから結果的に6年もかかってしまったのですが、その間に自民党政権から民主党、そしてまた自民党と、政権交代が繰り返されました。そのたびに世の中の光景が塗り替えられ、それ以前の出来事の評価が変化し、時には反転することを実感しました。同時代史ということで、やはり出来事の評価が定まっていないという点が、一番の難しさだったと思います。逆にいうと本書である程度試みたように、近い過去の評価を固めていかないと、冷戦後の日本外交が「失われた四半世紀」だといった安易な総括で語られてしまうと思います。

――執筆を通じて、新たに注目した政治家や出来事があれば教えてください。

宮城:うーん……政治家について具体的な名前を挙げると生々しくなるので、それは本書から酌み取っていただくとして(笑)、歴代首相など冷戦後の主要な政治家が目指した方向性や理念と、その結果の双方を立体的に把握する必要があると強く感じています。理念や方向性を捨象して、単に実現した出来事だけを並べるのでは、深みのある「歴史の教訓」は得られないと思います。言い換えると、「実現したことはすべて正しい」という平板な歴史観に陥りかねません。

出来事でいえば、外交・安全保障と連立与党組み替えとの連関ですね。本書で冷戦後の時期区分を考えた際、橋本政権・小渕政権の扱いで頭を悩ませました。最初は両者がともに竹下派=経世会であることから、「冷戦後の保守本流」という位置づけで考えていましたが、外交・安全保障面を見ていくと、前者が自社さで、後者は自自公という連立与党組み替えの要素が決定的に大きい。そこから外交・安全保障と連立組み替えという本書に通底する枠組みを考え始めました。

――本書の執筆作業を通して印象に残ったエピソードがあれば。

宮城:本書のタイトルでしょうか。最初の仮題は『冷戦後日本外交』だったのですが、執筆終盤にさしかかる頃、担当編集者の田中正敏さんの提案で『現代日本外交史』となりました。とても気に入っています(笑)。それが違和感なくストンと胸に落ちる背景があると思っていて、一つは本書執筆の6年間のうちに、「冷戦後」という言葉が古くなってきたこと、そしてもう一つはそれと表裏だと思いますが、この四半世紀が歴史になって来たということです。

今日の日本と世界は冷戦終結直後とは非常に異なるものになっており、「冷戦後」の次の時代、すなわち「ポスト冷戦後」を考えねばならない地点に来ていると感じます。「ポスト冷戦後」を考えるためには、「冷戦後」がいかなる時代であったのかを整理し、描く作業が必要になるのです。6年前であれば、『現代日本外交史』というタイトルには相当に違和感があったかもしれませんね。

――読者に注目してほしいポイントがあれば、教えてください。

宮城:現在の日本外交に関わるさまざまな課題には、いずれも歴史的文脈があり、特にこの四半世紀の「近い過去」の文脈が非常に重要です。「近い過去」の文脈を踏まえることなしに、現在の日本外交の方向性を把握し、評価することはできません。本書がそのような視座の手がかりになるのであれば、大変に嬉しく、ありがたいことだと思っています。

宮城大蔵(みやぎ・たいぞう)

1968年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、NHK記者を経て一橋大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。北海道大学大学院法学研究科専任講師、政策研究大学院大学助教授などを経て、現在、上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科教授。著書に『バンドン会議と日本のアジア復帰』(草思社、2001年)、『戦後アジア秩序の模索と日本』(創文社、2004年、サントリー学芸賞、中曽根康弘賞奨励賞)、『「海洋国家」日本の戦後史』(ちくま新書、2008年)、『橋本龍太郎外交回顧録』(共編、岩波書店、2013年)、『戦後アジアの形成と日本』(編著、中央公論新社、2014年)、『戦後日本のアジア外交』(編著、ミネルヴァ書房、2015年)、『普天間・辺野古 歪められた二〇年』(共著、集英社新書、2016年)など。