2016 11/01
私の好きな中公新書3冊

効果的な勉強のために/千葉雅也

熊野純彦編著『日本哲学小史 近代100年の20篇』
立木康介編著『精神分析の名著 フロイトから土居健郎まで』
川喜田二郎『発想法 創造性開発のために』

今日ほど、自由に勉強をするための環境が整っている時代はない。

ネットの情報はノイズだらけであるとはいえ、J-STAGEなどに集積された査読論文を手軽に読むことだってできる。本格的な資料がある。そして紙の本に目を向ければ、2000年代から、良質な入門書やアンソロジーの出版が飛躍的に増えている。いまや、第一級の研究者が、フラットな言葉づかいで、分野の森に奥深く入っていくためのガイドを務めてくれるのである。

僕は大学の授業でもいつも、「新書や選書で出ている信頼できる著者の入門書を読め」と繰り返し言っている。たとえば、哲学をやりたいというときに、カントなりハイデガーなり、いきなり本当の哲学書に向き合えというようなアドバイスをする人がいるが、それは一種の根性論だと思う。そんなことをしても、岩石にぶつかっていって撥ね返されるだけだろう。

勉強を効果的に進めるには、その分野において言葉を「どう使うものかの具合」をまず押さえることが必要なのだ。その客観性を少しでも確かにするには、複数の入門書やアンソロジーを比較することが欠かせない。お金がかかってしまうが(図書館をうまく使ってほしい)、一冊ではダメだ。いわば複数の情報提供者と事前にコンタクトをとって、その国の内情を多面的に知っておくというようなことが必要なのである。

ここに挙げた二つの編著も、哲学・精神分析のすばらしい地図だ。加えて、情報整理術「KJ法」を解説する古典的名著を挙げておいた。情報をバラバラのカードに記し、その組み合わせで問題意識を育てる技術であり、これは今日では、Evernoteやアウトライン・プロセッサの使い方に応用できる。

いまこそ勉強を! 効率的な情報術の勉強を含む勉強を。

千葉雅也(ちば・まさや)

1978年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授。著書に『動きすぎてはいけない』『別のしかたで』(ともに河出書房新社)。共訳書にカンタン・メイヤスー『有限性の後で』(人文書院)がある。