2022 07/11
著者に聞く

『カラー版 クモの世界―糸をあやつる8本脚の狩人』/浅間茂インタビュー その1

クモは身近な生き物で、日本には1700種もいるとされています。わたしたちもよくその姿を見かけますが、実際のところ、よく知っているとはいえません。『カラー版 クモの世界―糸をあやつる8本脚の狩人』を刊行した浅間茂さんに、クモの見つけ方や生態について教えてもらいました。(取材日2022年5月23日)

ここは正式には、我孫子市谷津(やつ)ミュージアムといいます。
谷津の低地にある谷津田は、周りの斜面林からしみ出した水を水田に利用したあと、排水路に流します。谷津は千葉県に見られる地形です。
神奈川県のほうには谷戸(やと)といって、同じような地形がありますが、水田の高低差が谷津より大きいです。あちらのほうは上流の丘陵から流れ出てくる川が流れています。水田はその水路からの水を利用し、また水路に排水します。

谷津は、斜面の林、林の縁の草原、そして中央の田んぼや湿地と多様な環境に、さまざまな生き物が棲んでいるところですが、いまでは開発でめっきり減りました。
ここの谷津ミュージアムは、ミュージアムといっても建物はなく、谷津全体をそっくりそのまま保護して、それを博物館としようというもので、いまから20年くらい前にできました。わたしも開設時から関わって、いまも事業推進専門家会議の委員長をしています。

ここでは、ニホンアカガエルやヘイケボタル、メダカなども見られます。ヘイケボタルはゲンジボタルと違って流れのない水に棲むので、田んぼやたまり水がないと生きていけません。できるだけ良い環境を維持しようと、ボランティアの方々が熱心に取り組んでいます。昨日は手で田植えをしていました。

谷津ミュージアムの看板

この看板のひさしの下側、雨に濡れない部分にユウレイグモがいますね。
似たようなクモにイエユウレイグモがいますが、棲む場所が違います。外にいるのがユウレイグモ、家で見つかるのがイエユウレイグモです。

クモはいるかな?
ユウレイグモがいた!

雨が降ったり湿度が高くなったりすると、網の粘着力が落ちます。そのため、クモはできるだけ濡れないところに網を張りたがります。
葉の裏や石の下などにも網を張りますが、人間が作った看板や建物などは格好の場所なのです。

金網に網を張るコガネグモ

こういう金網もクモを見つけやすい場所です。
木や草を足がかりにして網を張ると、風で葉が揺れて、網が壊れてしまいます。それはクモにとってもよくないので、風が吹いても揺れない金網は絶好の場所なのです。
また、金網は虫などの通り道になっていることもあり、クモにとっては獲物を捕らえるうえで都合がよいのです。

X字型の隠れ帯がよく分かる

この金網を足がかりにして網を張っているのが、コガネグモです。
中心にコガネグモが下向きにいますが、そのまわりに糸をジグザクに張った隠れ帯があります。X字型になっていてよく目立ちます。
この隠れ帯は、餌となる昆虫を引き寄せたり、羽毛の汚れを嫌う鳥が網の存在に気づいて網を避けたりするためといわれています。
このコガネグモは、環境が良い草原であるという指標生物です。

シロカネイソウロウグモの雄

網の中には別種のクモがいることがあります。
このコガネグモの右下に仁丹のようなシロカネイソウロウグモがいますね。ほんとうに小さいでしょう。これでも雄の成体です。網の主のおこぼれを貰っています。

ゴミリボンの中央にゴミグモがいるはずだが……

ゴミグモは縦長のゴミリボンをつけます。ゴミをくっつけて作ったもので、ゴミといっても、拾ってくるのではなく、自分が食べたあとの虫の死骸や網にかかった枯れ葉などを利用しているようですね。また卵嚢もその中につけます。
ゴミの少し上にクモ自身もいますが、分かりづらいですか? ではちょっと突ついてみましょう。

ゴミグモが動いた

少し動いて脚を広げてくれました。クモがいることがよく分かるでしょう。あっ、また脚を縮めてしまいました。
ほとんど動かず、ゴミに擬態しているのです。

(その2)に続きます