2021 06/02
私の好きな中公新書3冊

たくさんの宝石を見せてくれる存在/政井マヤ

本村凌二『世界史の叡智 勇気、寛容、先見性の51人に学ぶ』
高階秀爾『カラー版 近代絵画史 増補版(上) ロマン主義、印象派、ゴッホ』
    『カラー版 近代絵画史 増補版(下) 世紀末絵画、ピカソ、シュルレアリスム』
野口雅弘『マックス・ウェーバー 近代と格闘した思想家』

本棚を見るとその人が分かるとよく言われる。本棚に並んだ本にはその人がなりたい自分、得たいもの、欲しているものが表れている、とどこかで書いている人がいて、ドキリとさせられた。

そう思って自分の書棚を見てみると、赤面しそうになる。詩集や絵画、文学もあるが、圧倒的に"教養"系の本が多い。その他は片付けや時間のマネジメント術など。

その通り、私は現実的に片付けや事務的な作業の滞りに日々苦しみ、また一方で常に何かをもっと知りたい、と飢えているのだと。それは、いろんなことに興味がありながらも突き詰められず、何の専門家にもなり損ねてしまっている自分そのもの。ただ、広く、知らないことを知りたくて仕方ないのだ。歴史を、アートを、概念を。

『世界史の叡智』はNHKの高校講座「世界史」の収録でご一緒させていただいた本村凌二さんが語る51人の人物論。ハンニバルや曹操など有名どころはもちろん、リンカーンのライバルであったダグラスなど初めて知る人物も。新聞の連載をまとめた短い文章の中に美学と少しの皮肉が効いていて、ワインを片手に読みすすめたくなる本。

アートは好きだが、いつもその作品の歴史的背景を頭で理解したいとも思ってしまう。高階秀爾さんの『近代絵画史(上)』『近代絵画史(下)』は、この2冊でその時代の美術史の概要をおさえられる新書らしい本。

大学で社会学を専攻した私にとってマックス・ウェーバーは知の巨人である。彼が宗教観と経済活動を結びつけて論じたように、内的価値観が人を社会を動かしている様子を、極力その価値観から自由になりながら観察し、論じようとする姿勢に影響されているのだ。野口雅弘さんの『マックス・ウェーバー』は、主要著作ばかりか、ウェーバー自身にフォーカスした本で興味深く、学び直しの意味もこめて読んでいる。

アナウンサーという仕事も、知らないものを知りたいという気持ちで続けているように思う。マイクの向こうのその人の"思い"を知りたい、そして広く伝えたい、と。その人にしか語れない言葉や真実は、宝石のような輝きを持っているからである。

そんな知りたがりな私は、人だけでなく、本からも、面白い話を聞きたくなる。へー、と思わず唸らされる事実を知りたい。この世界はたくさんの宝石を隠し持っていて、私はそのうちの少しも知らないと思うからである。新書は、そんな私にたくさんの宝石を見せてくれる存在なのだ。

政井マヤ(まさい・まや)

1976年、メキシコ人の父と日本人の母の間に生まれる。メキシコシティ生まれ、神戸育ち。上智大学文学部社会学科卒業。2000年、フジテレビに入社し、アナウンサーとして『スーパーニュース』『笑っていいとも』など報道・バラエティ番組を担当。2007年に退社し、その後フリーとして幅広く活動している。2012年、日本メキシコ交流年親善大使を務めた。現在放送中のNHK高校講座「世界史」(https://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/sekaishi/intro.html)ではMC。
オフィシャルサイト http://mayamasai.com/