- 2020 12/14
- 私の好きな中公新書3冊
西平重喜『比例代表制 国際比較にもとづく提案』
加藤秀治郎『日本の選挙 何を変えれば政治が変わるのか』
待鳥聡史『代議制民主主義 「民意」と「政治家」を問い直す』
記録を取っていたわけではないが、『比例代表制』(中公新書615、1981年)に筆者が出会ったのは15の夏ということは確かである。各国の選挙の仕組みについて学ぼうと思い立ち、市立図書館で借りた数冊の中に含まれていたのである。
本書の印象は、同時に借りた学術書の類とは異なり各種選挙制度がわかりやすくコンパクトに整理された、まさしく自分がもとめていた本だ、というものだったと思う。当時は意識していなかったが、同書を含むいくつかの選挙制度解説書は、筆者の新書との出会いでもあった。
タイトルとは異なり、同書は中選挙区制(日本)、小選挙区制(イギリス)と比例代表制とは"反対側"の選挙制度の解説が序盤を占める。これは、読者が慣れ親しんだ選挙から入る親切設計であると同時に、当時未導入だった比例代表制を魅力的に見せる仕掛けでもある。
もっとも、民主的に成功している国の特定の制度のみを模倣したところで理想に近づける保証はない。『日本の選挙』(中公新書1687、2003年)が主張するように、選挙制度はそれ単独ではなく、政治制度全体の中で議論する必要がある。同書では日本の選挙を単に特殊と位置付けるにとどまらず、議会制度を中心とする政治制度との関係、衆参や地方など各種選挙同士の関係にも目を配る。
『代議制民主主義』(中公新書2347、2015年)は、これをさらに突き詰める。同書は選挙制度を、大統領制や議院内閣制といった執政制度と並列して、政党や政治家の行動や性質を決める誘因構造として扱う。そして、「決められない政治」などの諸問題を緩和する方策として各種制度改革を論じる。
数ある中公新書の中で、選挙制度を重要なテーマとして論じているのは、おそらくこの3冊のみである。しかし、いずれも思索の糧になる良書であるのは、さすが中公新書といったところだろうか。選挙制度や政治制度について知りたい、考えたい方は、ぜひ手に取っていただければと思う。
3冊は、この順に制度の捉え方が複雑化、精緻化している。これは、この間の日本の政治学の経過を示しているようで興味深い。連続して読めば、子供が大人へとなるような脳の成長を体験できるかもしれない。思えば自分も"賢く"なったものだなと。
ただ一方で、出版年が後ろに行くほど、筆者は"大人の事情"を聞かされている気分にもなる。ある人が選挙制度に疑問を持つとき、制度が規定する政治家や政党のあり方、あるいは制度間の関係などがその端緒となることはそうないだろう。選挙結果が何かおかしい――選挙制度に目が向くのはそう感じたときである。
特定の勢力のみが政権を担い続け、「持たざる者」の側の声は抑えられる。世界的に見て日本の選挙は、ずっと異常なままである。「国会は全国民の意見の縮図であるべき」(p.172)とシンプルに我を通し比例代表制導入を「提案」する『比例代表制』は、出会って四半世紀を過ぎた今もなお、好きな一冊である。