2019 10/17
私の好きな中公新書3冊

自分なりの「ほぅ」を見つける/さわぐちけいすけ

浅間茂『虫や鳥が見ている世界 紫外線写真が明かす生存戦略』
唐沢孝一『カラー版 目からウロコの自然観察』
金森修『動物に魂はあるのか 生命を見つめる哲学』

令和に入ってから文鳥やメダカを飼いはじめ、顕微鏡を買い、動植物の豊かな環境に身をおく中で気がついた。身の回りに存在する自然を、私は見逃している。すべてを見逃すことなく観察することなどできない。それにそもそもそこまで興味がない。しかし、ふと気になる生き物と出会ったときに行う「観察する」という行為は、普段自分がどれだけ人間基準でしか物を考えていないかを気づかせてくれる。

『虫や鳥が見ている世界』を読むとわかるように、彼らには人間とは全く異なる世界が見えている。比較参考としてフルカラーの写真と紫外線写真が並べられていて、オスかメスかの見分けなど遠目では全くつかない蝶々も紫外線写真で見れば一目瞭然だ。そのため紫外線が見えるという構造は彼らの求愛や子育ての際に非常に重要な要素となる。そんな「紫外線が見えるやつら」に絞った内容を読むことによって「では鳥や虫が嗅ぐ匂い、聞く音、感じる味はどうなっているのだろうか?」ということも気になってくる。

疑問の量が増したところで『目からウロコの自然観察』がさらに観察の幅を広げてくれる。人間も含めてすべての生き物は例外なくワケのわからない形をしている、というのが常日頃から感じている私の正直な感想だ。しかし、その生活のスタイルを知れば知るほど「なるほど理にかなっていなくもない」という感動がある。この書籍の中でも、様々な生き物や植物の生活がカラー写真とともにわかりやすく紹介されている。自然にもっと興味を持とうかな、となったとき、どんなところに疑問や関心を持つとよいのかの参考にもなる。蜘蛛が自分の巣にかかった獲物に対して音や景色ではなく振動を感じて襲いかかっていることを確かめるため、振動する音叉を巣に当ててみた様子の写真などは思わず真似したくなる。

人間とは程遠く、異なる感覚と生活を送る生き物の存在を認めた上で、『動物に魂はあるのか』を考える。このタイトルは、そもそも人間にとっての魂とは何なのか? 魂の有無は何をどう用いて判断するのか? などの疑問を引き起こす。正直に言うと、書籍内の情報のほとんどが私にとっては小難しく読みづらいと感じた。恥ずかしながら私の知識不足がすべての原因である。しかし、筆者なりの結論を伝えるために丁寧に言葉を重ねた結果であるのは明確であり、たとえ半分以上「何を言っているのかわからなかった」としても、本一冊の中でたった一文でも「ほぅ」と思う部分があるのであれば、それは定価(本体880円+税)では到底収まらない価値があるだろう。実際本書にはあった。

買った本を最初のページから順番に読み進めて、最後まで余すことなく理解し、糧にできたらそれは素晴らしいかもしれない。だが本も自然も、人生すべてを費やしても消費し尽くせない広がりと深さがある。今回紹介した3冊は私にとって、実用に執着せず自分なりの「ほぅ」を見つけるのに役立った豊かな記録と言い換えられる。

さわぐちけいすけ

漫画家。1989年生まれ、岩手県出身。夫婦円満の秘訣を描いた漫画がSNSで話題に。2017年、KADOKAWAより『妻は他人 だから夫婦は面白い』でデビュー。その他の著書に、『人は他人 異なる思考を楽しむ工夫』『妻は他人 ふたりの距離とバランス』(いずれもKADOKAWA)、『僕たちはもう帰りたい』(ライツ社)がある。
Twitter:@tricolorebicol1