2019 10/04
私の好きな中公新書3冊

「偉大なアマチュア」のネタ本/元村有希子

本川達雄『ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学』
酒井邦嘉『科学者という仕事 独創性はどのように生まれるか』
小島莊明『寄生虫病の話 身近な虫たちの脅威』

新聞記者は「偉大なアマチュア」であれ、が持論である。長くこの仕事をしていれば、専門分野や得意分野ができてくる。それでも、わけ知り顔の専門家になってはいけない。その世界を知り尽くす専門家からどれだけ旬な情報を引き出せるかが、記者の本分だと思うのだ。

いま何がおもしろいのか。おもしろいことを追いかけている人は誰か。そんな好奇心に応えてくれるのが新書だ。手軽に買えて、持ち運べて、ちょっとした時間に少しずつ読める。知らないことのオンパレードで、読みながら「こうしちゃおられん!」と本を放り出したくなる。

『ゾウの時間 ネズミの時間』は、単細胞生物からクジラまで、生き物をサイズという切り口で徹底的に分析し、共通点を見出そうとする。最初に読んだときには「ゾウもネズミも心臓が20億回で寿命を迎える」という衝撃の事実に驚いた。久しぶりに再読し、「生き物の時間の長さは体重の4分の1乗に比例し、エネルギー代謝量は体重の4分の3乗に比例する」という事実に鳥肌を立てている。科学は、かくもシンプルなのか。

「すべてはできうる限り単純にされるべきで、より単純という程度では良くない」。天才アインシュタインのこの言葉が『科学者という仕事』に紹介されている。この本は大量の文献を引きながら、科学とは何か、科学的とはどういうことか、科学者とはどんな人物かを巧妙に解説してくれる。若い研究者にはもちろん、そうでない人にも、さまざまな場面でのネタ本として勧めたい。

中公新書の魅力はその歯ごたえにある。読者を置いてけぼりにしない程度には分かりやすいが、専門的な記述もかなりあって、そこが知的好奇心をくすぐる。『寄生虫病の話』は、寄生虫の驚くべき生態や、寄生虫学者たちの果敢な戦いの歴史が淡々とつづられる。そういえば二十数年前、上京して初めて訪ねた博物館が目黒寄生虫館だったことを思い出した。

元村有希子(もとむら・ゆきこ)

1966年生まれ。九州大学教育学部卒業。1989年毎日新聞社入社。西部本社、東京本社科学環境部、デジタル報道センター、科学環境部長を経て、2019年春より論説委員兼編集委員。2006年、「理系白書」の報道で第1回科学ジャーナリスト大賞受賞。科学コミュニケーション活動に力を入れ、富山大学、国際基督教大学などで教壇に立つが、大学で取得した教員免許は「国語」。著書に『理系思考』『気になる科学』『科学のミカタ』(以上、毎日新聞出版)、『カガク力を強くする!』(岩波ジュニア新書)などがある。