2019 04/15
私の好きな中公新書3冊

読む前と後では世界が違って見えた/宮田珠己

籾山明『漢帝国と辺境社会 長城の風景』
榎原雅治『中世の東海道をゆく 京から鎌倉へ、旅路の風景』
本川達雄『ウニはすごい バッタもすごい デザインの生物学』

3冊選べとの依頼を受けたが、面白い本が多すぎて絞りきれない。仕方ないので、自力ではとても想像の及ばない世界を身近に感じさせてくれた新書、とテーマを勝手に決めてチョイス。

タイトルを見て即買いした『漢帝国と辺境社会』は、漢の時代に西域に送られた防人たちの暮らしを、発掘された木簡から読み解いていくもので、はるか昔、遠い砂漠の果てに、現在のわれわれと変わらない人間の営みがあったことを実感させてくれた。
長城でいつ来るとも知れない匈奴の侵入を見張る生活は、どこか哲学的な様相を帯びるのではないかと空想していた私は、あまりに普通なその日常に拍子抜けしつつも、かえって旅心をそそられたものだ。

『中世の東海道をゆく』はまさに旅の本で、鎌倉時代の旅がどんなだったのか、そのリアルを教えてくれた。それは川を歩き、潮の引いた海を駆ける、道さえもない野性の旅だった。目にする自然の風景も現代とはまるで違っていたらしい。読むほどに旅愁に誘われた。今もっとも旅をしてみたい場所は、大昔の日本だ。

一転して『ウニはすごい バッタもすごい』は、生物がいかに巧みにデザインされているかを教えてくれた。語り口の平易さとアナロジーの秀逸さにうなる。花びらを昆虫の滑走路だとする仮説に膝を打ち、突然歌が登場する相変わらずの本川節(文字通り)に、そんな歌いらないとツッコミながらも楽しく読んだ。

どれも読む前と後では世界が違って見えた。

宮田珠己(みやた・たまき)

1964年生まれ。紀行作家。サラリーマン時代に書いた『旅の理不尽』で注目され、以後、海外や国内の旅行エッセイ等で活躍。2007年、『東南アジア四次元日記』で第3回酒飲み書店員大賞を受賞。他の著書に『わたしの旅に何をする。』『晴れた日は巨大仏を見に』『スットコランド日記』『日本全国津々うりゃうりゃ』(以上幻冬舎文庫)、『だいたい四国八十八ヶ所』(集英社文庫)、『四次元温泉日記』(ちくま文庫)、『いい感じの石ころを拾いに』(河出書房新社)、『東京近郊スペクタクルさんぽ』(新潮社)、『無脊椎水族館』(本の雑誌社)など。
湘南モノレールWEBサイト「ソラdeブラーン」にも寄稿している。
近著に『ニッポン47都道府県正直観光案内』(本の雑誌社)。