2018 07/04
私の好きな中公新書3冊

150年目に読む3冊/佐藤賢一

星亮一『奥羽越列藩同盟 東日本政府樹立の夢』
石光真人編著『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』
毛利敏彦『明治六年政変』

今年(2018年)は「明治維新150年」である。しかしながら、私が生まれた東北では「戊辰150年」といわれる。歴史は見方で大きくくつがえる。またくつがえしてくれる歴史書ほど面白い。今回は幕末明治を全く別にみせてくれる3冊を、お薦めしたい。

東北人がこだわるというのは、戊辰戦争のほうが意味深く思い出されるからだ。『奥羽越列藩同盟 東日本政府樹立の夢』を読んでもらえれば、その理由がわかる。それは官軍が賊軍を討伐する、などという一方的な話ではなかった。薩長に抗する東北の大同団結に光を当てないでは、真相は決して描かれえないのだ。

まさしく「勝てば官軍」の理屈が罷り通るなか、よくぞ出してくれたものだと、感動すら覚える一冊が『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』だ。会津といえば、戊辰最大の激戦地であり、最悪の悲劇の舞台である。その苛酷な現実が、渦中を生きた人間の生の言葉で語られている。歴史をくつがえすというより、ほとんど歴史の告発である。

戊辰を不本意に終えて、東北人が期待したのが、今年話題の西郷隆盛だったりもする。薩長の専横を正してほしい。あるべき国の姿を取り戻してほしい。そう思いを寄せた巨魁も明治6年、征韓論に敗れて下野、そのあげくに西南戦争を起こして、明治10年に自刃に終わる。まったく、どうしてこうなってしまったのか。

そのとき廟堂で争われたのは征韓論の是非でなく、事の本質的は政争であり、権力闘争であったと論じた一冊が、『明治六年政変』である。西郷は邪魔にされた、要は政府を追い出されたというのだ。

これまた挑戦的な内容である。歴史書というのは、こうでなくてはいけない。

佐藤賢一(さとう・けんいち)

1968年、山形県生まれ。東北大学大学院で西洋史学を専攻し、『ジャガーになった男』(小説すばる新人賞受賞)で作家デビュー。『王妃の離婚』で直木賞、『小説フランス革命』(全12巻)で毎日出版文化賞特別賞を受賞。ヨーロッパが舞台の歴史小説を数多く発表して注目を集め、近年はアメリカや日本を舞台とする作品も手がけている。小社刊に『カエサルを撃て』『剣闘士スパルタクス』『ハンニバル戦争』『ファイト』がある。