2018 02/05
私の好きな中公新書3冊

「再発見」をさがしに/大塚砂織

田中修『植物はすごい 生き残りをかけたしくみと工夫』
辻井達一『日本の樹木 都市化社会の生態誌』
小泉武夫『醤油・味噌・酢はすごい 三大発酵調味料と日本人』

本に絵を描く仕事をしている。数学、経済、科学などなど「知らない事」に飛び込み絵を考える。あれ、でも、「知ってる事」ってなんだろう。再発見を探しに、身の回りにあるテーマの本を。

『植物はすごい』とは。彼らの時に信じられないような神秘的な行動には、長い時間が作り出した合理的なバックグラウンドがある。人間と全然違う器官や感覚を使い、巧みな戦略で環境や動物と補い合って生きている。その輪から外れ奪うばかりになっていないか、と人間は恥じ入りつつベランダの植木に水をやり、彼らの作る新鮮な空気を深く吸いこむ。

ベランダからちょっと外へ散歩。『日本の樹木』で普段何気なく眺める木々の個性を知る。貧しき記憶頼りでは、ありふれたクヌギとコナラの違いさえおぼつかない。本に帰り、実や葉の特徴を見返し、覚えては忘れの繰り返し。合間に散りばめられた古今東西の薀蓄がまた楽しい。

散歩から帰り食卓へ。『醤油・味噌・酢はすごい』こちらのすごいは大御所三家にせまる。醤油の章の理路整然とした文章をふむふむ読み進めると味噌の章では俄然情熱的に。まるでお気に入りのレコードを語るマニアの如き熱量で著者の味噌愛が爆発、その言語化された愛に触れるとどうしたことかこちらも味噌をより愛おしく思えてきて、読んでいると猛烈にネギ味噌お握りやら味噌汁やらが恋しくなってくる。自然の発酵の神秘と、それを生かす人間の知恵、どちらのすごさも味わえる。

「知ってるつもり」を見直せば、発見と喜び、ささやかな愛に満たされる。ここにあげた三冊はいずれも著者の対象へのまなざしがあたたかく、気軽に読めるのになかなか深い、手を伸ばせば届く知の豊かさを感じさせてくれる。というわけで新書の魅力も再発見なのである。

大塚砂織(おおつか・さおり)

1972年神奈川県生まれ。95年セツ・モードセミナー、98年パレットクラブスクールを卒業。97年からフリーランスのイラストレーターとなり、現在に至る。中公新書では、大竹文雄『経済学的思考のセンス』『競争と公平感』『競争社会の歩き方』、酒井邦嘉『科学という考え方』のイラストを担当、雑誌『婦人公論』でもコラム「海外女性通信」の挿画を手掛ける。
大塚砂織さんのHP http://saoriotsuka.com/index.html