- 2017 11/15
- 私の好きな中公新書3冊
八代尚宏『シルバー民主主義 高齢者優遇をどう克服するか』
前田正子『保育園問題 待機児童、保育士不足、建設反対運動』
大沼保昭『「慰安婦」問題とは何だったのか メディア・NGO・政府の功罪』
社会で対立が先鋭化している中、誰のいかなる利益や権利を優先して守るべきなのか。
『シルバー民主主義』は、これまで「弱者」に分類されてきた高齢者の既得権益に踏み込む。積み上がる財政赤字を放置し、年金・医療・介護の制度を通じて高齢者に優先的に予算を配分する/せざるを得ない仕組みを批判する内容だ。著者も含む団塊の世代が受けた教育水準の高さや公共心に鑑み、世代間の対話と理解を促す筆致には救いを感じる。
『保育園問題』は、いっこうに減らないように見える「待機児童」の背景を包括的に論じる。著者自身、基礎自治体の副市長としてこの問題の解決にあたった経験から、用地確保の難しさ、建設反対運動への対応の描写はリアリティに富む。都市部だけでなく過疎地における保育園の意義、これから仕事に復帰したい専業主婦・主夫にとっての保育園の位置づけなど、広い視野で問題をとらえる。政府や行政を断罪する単純な議論で終わらず、働く親と子に関わる、あらゆるステイクホルダーに気づきを与えてくれる。
『「慰安婦」問題とは何だったのか』は、この問題に関心を寄せつつも、高度に政治化し感情的な対立を生んだ話題から距離をおきたいと考える人にこそ勧めたい。特に韓国の慰安婦問題が、日本政府の法的責任追求にかたよって議論されたため、被害当事者の望む補償が遠ざかった、というくだりは、NGOやメディアに猛烈な反省を促すものだ。そして、著者自身も深く関わったアジア女性基金が偏向報道にさらされる中、政治的選好を問わず、基金に個人として寄付をした一般の人々の行動に頭が下がる。
いずれの本が扱うテーマも、世代間、市民と行政、日韓政府や政治的選好など、対立軸をもって語られることが多い。そうしたわかりやすい対立軸を使う安易さから距離をおき、事実の積み重ねをもって中庸を保つ本の多さが中公新書の魅力だと思う。