2017 09/21
著者に聞く

『人口減少と社会保障』/山崎史郎インタビュー

今や日本最大の課題と言ってもよい社会保障。人口減少時代に入り、その状況は厳しさを増しています。現状の課題から対応策まで、また制度から現場まで幅広く議論している『人口減少と社会保障』を著した山崎史郎さんに聞きました。

――長く社会保障に関わられた経歴と印象に残っていることを教えてください。

山崎:1978年に旧厚生省に入省し、38年間政府の仕事に携わった後、昨年6月に退官しました。

その間、主な仕事として、1990年代半ばから厚生省で介護保険制度の導入、内閣府や内閣官房でリーマンショック前後の経済雇用対策などを担当しました。そして、2011年に厚生労働省社会・援護局長として、生活困窮者支援の素案づくりに携わりました。その後、内閣府の少子化対策担当などを経て、2015年から内閣官房まち・ひと・しごと創生本部の地方創生総括官を務めました。

その中で印象深いのは、やはり、一つは、1994年から2006年までの十数年の大半の期間にわたり、介護保険の制度設計、施行、見直しを担当したこと。もう一つは、最後の仕事として、今後の最大課題である人口減少の問題に、地方創生の立場から政府全体で取り組む機会を得たことです。

――「社会保障」というと、年金は破綻しないか、医療は、介護は……と個別課題ばかり考えがちですが、本書では、社会保障の全体構造をとらえることが重要だと書かれています。そうした考えを持つようになったのはなぜでしょうか。

山崎:社会保障は、単独で存在している訳でなく、家族や雇用、地域などの動きと深く関わりながら、機能を果たしています。

どうしても「社会保障」を専門とする人たちは個別制度の運営に目が奪われがちです。他方、専門でない人たちは、社会保障は自分たちと関係のない分野と考えがちです。

これからは、社会保障をもっと広く捉えて、社会保障の「制度」にとどまらず、「しごと」や「すまい」「地域」など幅広い分野も含めた社会システムとして考え、より多くの人々が議論や制度運営に参画していくことがなによりも重要です。

そう思ったのは、私自身が、社会保障を厚生労働省の内側と外側の両方から見る機会が多かったからだと思っています。

――本書は、制度の「縦割り」の狭間に落ちたり、「社会的孤立」のリスクを抱えている人々へのまなざしが印象的です。そのきっかけがあれば教えてください。

山崎:2000年代以降の若者の雇用や生活をめぐる事態は、それまで高齢者の介護問題に専念してきた私にとっても、大きな衝撃でした。内閣府で経済雇用対策などに取り組みましたが、日本社会で、高齢化問題のほかに、若い世代も含め家族や雇用の問題、特に「社会的孤立」の問題が深刻化になっていることを痛感しました。

そして、「社会的孤立」の問題が「少子化」につながり、最後は「人口減少」にまで至ったと考えています。その点で、人口減少の問題と、社会的孤立や格差の問題は、切っても切り離せない関係にあり、対策も重なり合う面が多いのです。

――今後、取り組みたいことを教えてください。

山崎:介護や地方創生、生活困窮者支援などのテーマについて、NPOや自治体、民間事業など現場の人たちと一緒に取り組む機会が多かったこともあり、これからも、そうした方々と協力して、様々な地域の課題の解決を目指すプロジェクトを進めていきたいと思っています。

介護で言えば、認知症高齢者の徘徊・行方不明の問題に対応した全国の発見・見守り態勢づくりに取り組んでいます。人口減少や社会保障はテーマが非常に広範なだけに、取り組むテーマは尽きません。

山崎史郎(やまさき・しろう)

1954年、山口県生まれ。78年に東京大学法学部卒業後、厚生省(現・厚生労働省)入省。厚生省高齢者介護対策本部次長、内閣府政策統括官、内閣総理大臣秘書官、厚生労働省社会・援護局長などを歴任した後、2015年1月から16年6月まで地方創生総括官を務めた。その間、介護保険の立案から施行まで関わったほか、若者雇用対策、生活困窮者支援、少子化対策、地方創生などを担当した。著書に『介護保険制度史――基本構想から法施行まで』(共著、社会保険研究所、2016年)