- 2017 03/28
- 私の好きな中公新書3冊
中島義道『ウィーン愛憎 ヨーロッパ精神との格闘』
高田里惠子『学歴・階級・軍隊 高学歴兵士たちの憂鬱な日常』
勝部真長『青春の和辻哲郎』
学問の世界の最先端の知見を、一般の人にもわかりやすく、しかもおもしろく伝える本。それが、新書というスタイルが日本の出版界に登場したときの位置づけである。数ある新書のなかで中公新書が、その方針を辛抱強く保持しているのは、ほとんど奇跡的とも言えるだろう。
しかし今回は、その王道に即してはいるが、やや毛色の変わった三冊を紹介したい。知の体系を整理して伝えるというよりも、読者が当たり前だと思っている事柄に異を唱え、常識的な思考に対して大胆な挑発を行なうのも、知の営みの重要な役割なのだから。
『ウィーン愛憎』は、ウィーンで恵まれない留学生活をすごした著者が現地の重苦しい空気と戦い、疲れ果ててゆく壮絶な記録。異文化の理解というかけ声がいかに絵空事であるかを教えてくれる。のちに増補版が文庫で刊行され、それが品切になったのちも、もとの新書は版を重ね、いまだに現役で手に入る。この本を愛する口コミの声が根強く広がっているのだろう。
『学歴・階級・軍隊』は、昭和の戦争期、軍隊のなかにも持ちこまれた、学歴による格差の問題をあばき出して、「戦没学徒」をめぐるロマンティックな回想に冷水を浴びせている。本の著者と読者が、社会全体から見れば少数の高学歴者にかぎられていた時代があった。そのことを忘れないよう、注意をうながしている。
『青春の和辻哲郎』は、中公新書史上、もっともスキャンダラスな一冊かもしれない。若き日の和辻哲郎や谷崎潤一郎の遊蕩生活をリアルに明らかにしたため、当時は存命中だった関係者から抗議を受けたという。しかし明治・大正の青春群像を描いた本として、貴重な記録になっている。