2017 03/14
私の好きな中公新書3冊

あなたの問題を、あなたから解き放つ/内田良

森田洋司『いじめとは何か 教室の問題、社会の問題』
高木光太郎『証言の心理学 記憶を信じる、記憶を疑う』
苅谷剛彦『大衆教育社会のゆくえ 学歴主義と平等神話の戦後史』

私が学問に求めるのは、各個人の問題とされることを、各個人から解き放ってくれる作用である。

『いじめとは何か』に示された「いじめ集団の四層構造モデル」は、いじめを生成・存続させる磁場を描き出す。すなわち、いじめは「被害者」個人や「加害者」個人だけでは説明できない。それを取り囲む「観衆」がいじめを増幅させ、さらにはその外側で見て見ぬふりをする「傍観者」がいじめを黙認する。クラス全体の磁場で、いじめは出来上がっている。

『証言の心理学』は、個人の所有物とされる記憶が、「外の世界に開かれたもの」であることを明らかにする。刑事裁判の現場では、目撃者である個人の記憶にもとづく証言が、被告人個人の一生を台無しにしてしまうことがある。その個人の記憶というものが、自覚されないうちに、他者とのネットワークのなかで変容し構築されていくものだとしたら、安直な物語に乗るわけにはいかなくなる。

『大衆教育社会のゆくえ』は、子ども個人の「無限の可能性」を軸にした教育論を相対化する。子どもの学業成績には、家庭の文化的・経済的なバックグラウンドが影を落としている。それを「無限の可能性」というレトリックが覆い隠してしまうのだ。個人の所有物とされる学力や能力がその外側の社会文化的状況と関連づけられると同時に、それを見えなくさせるロジックが暴かれる。

以上、あなた個人から、その外部へと問題は解き放たれた。だがその一方で別の個人の問題を、あなた自身が外部の社会やネットワークの一員として背負うことにもなる。単なる責任の転嫁ではなく、そこに責任の共有が生まれてくるのだ。

内田 良(うちだ・りょう)

1976年福井県生まれ。名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授。博士(教育学)。専門は教育社会学。著書に『柔道事故』(河出書房新社)、『「児童虐待」へのまなざし』(世界思想社、日本教育社会学会奨励賞受賞)、『教育という病』(光文社新書)など。