2016 12/27
知の現場から

青柳いづみこの仕事場

 ピアニスト・文筆家として演奏と執筆の両面で活躍する青柳いづみこさん。2016年9月には中公新書『ショパン・コンクール 最高峰の舞台を読み解く』を、10月には作曲家・ピアニストの高橋悠治さんと『大田黒元雄のピアノ――100年の余韻』と題するCDを発表したばかり。そんな青柳さんの「知の現場」=自宅を訪問しました。

 まずは何といってもピアノ。以前はここで生徒を教えていたので2台並んでいます。高橋悠治さんとの2台ピアノ曲もこの部屋で練習したとか。ここでドビュッシー『牧神の午後への前奏曲』が鳴り響くのを想像すると......。

「途中からはスタジオを借りましたが、ここならタダですから。本番が迫っているとき、譜読みするときは朝から晩まで弾いています。でも本を書くあいだは1週間とか10日間とか弾かないこともありますね。ピアニスト仲間のあいだでは、『練習しないとうまくなるよね』と言い合うことも(笑)」

 右側にあるのは1983年製のスタインウェイ。白鍵は今では取り引きが禁じられている、貴重な象牙。

「象牙かそうでないか、見た目はあまり変わらないのですが、ちょっとした手触りが違うんですよ。でも先日、雨漏りでピアノにも被害があって、130万円かけて修理したばかり」

弾き込まれたピアノはやはり存在感があります

 えっ、雨漏り?

 実は青柳さんの家は、祖父・青柳瑞穂以来の由緒ある建物。瑞穂は詩人・フランス文学者・古美術蒐集家として知られる人物で、井伏鱒二や太宰治、火野葦平ら文士たちが集った「阿佐ヶ谷会」の会場が瑞穂の自宅、つまり青柳さんが住んでいるこの家なのです。

 部屋の壁には祖父・瑞穂の写真が。評伝『青柳瑞穂の生涯』のカバーにも使われているものです。

瑞穂の左下には若き青柳さんの写真も

 最近は見かける機会の少なくなった、演奏会のポスター。この演奏会は高い評価を得て、文化庁芸術祭賞を受賞することに。

「数十枚から100枚単位で作るんですが、貼ってもらえるところが少なくて。つてを辿ってあちこちに送ったりお願いしたりしました」

他にもホールの手配や衣装代など……。演奏会を開くのは大変
部屋にはおもしろそうな(不思議な?)ものがいろいろ……。「こんなのばかり出したら、私本当に変な人ですね(笑)」

 ご存じの読者もいるでしょうけれど、青柳さんは『婦人公論』2015年12月8日号の片づけ術の特集に登場。「日本ときめき片づけ協会」のコンサルタントに指導してもらって片づけた玄関は今も整頓された状態です。

これでも散らかっている? 以前は文字どおり足の踏み場もなかったのです

 阿佐ヶ谷文士村に生まれ育ち、幼いころから豊かな芸術に囲まれていた青柳さん。旺盛な好奇心と多方面での活躍を育む「知の現場」でした。

青柳さんの家の前で

青柳いづみこ(あおやぎ・いづみこ)

ピアニスト・文筆家。安川加壽子、ピエール・バルビゼの両氏に師事。東京藝術大学大学院博士課程修了。大阪音楽大学教授、日本ショパン協会理事。著書に『翼のはえた指 評伝安川加壽子』(吉田秀和賞)、『青柳瑞穂の生涯』(日本エッセイスト・クラブ賞)、『六本指のゴルトベルク』(講談社エッセイ賞)、『ドビュッシー』『ピアニストが見たピアニスト』『音楽と文学の対位法』『ピアニストは指先で考える』『グレン・グールド』『ドビュッシーとの散歩』『アンリ・バルダ』『どこまでがドビュッシー?』『ショパン・コンクール』『水の音楽(増補版)』など。
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