井上章一 著
日本を代表する建国伝説の英雄、ヤマトタケル。美貌の皇子は、女をよそおい、敵を殺めたと記紀は伝える。やがて英雄譚は、スサノオの聖剣伝説、源義経の千人斬り、熱田神の楊貴妃転生説、八犬伝の復讐劇へ。千年にわたり変奏する「女になった英雄たち」の物語を、私たちは愛し、語り継いできた。その精神は、帝国軍人の女装劇、現代の多様な性にも至るという。なぜ日本の勇者は、美しき暗殺者なのか? 著者が少年時代から抱いてきた憧憬に出発し、日本史の英雄たちを自在に訪ね、性の日本文化論を描き出す。古今の文献をふまえ麗筆をふるい、日本人の夢や願望、民族感情のありかを明らかにする。