2020 06/19
私の好きな中公新書3冊

人生の岐路で出会う新書/鈴木一人

服部正也『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』
高坂正堯『国際政治 改版 恐怖と希望』
中村好寿『軍事革命(RMA) 〈情報〉が戦争を変える』

非常に困った依頼である。新書は知的好奇心や新しい知識との接点ではあっても小説のように感情移入するわけではないので「好き」という感情を基準にして本を選ぶことが難しい(本に限らず様々なことに「好き/嫌い」の感情を持つことがあまりない)。「有益な三冊」や「お薦めの三冊」にしようと思うと、中公新書にはあまりにも有益なものやお薦めしたいものがありすぎて選べない。

なので「自分の人生に影響を与えた」という基準で選び、この三冊を取り上げたい。結果としてド定番な感じになってしまったが、まあ自分の人生に嘘をついても仕方が無い。

まず『ルワンダ中央銀行総裁日記』。父が銀行員で、ニクソンショック直後の1972年からニューヨークの支店に赴任となった。ちょうどその時出版された本書を手にしており、父の本棚から盗み読みした最初の新書であった。見知らぬ世界に飛び込んだ銀行員のストーリーを父の姿に重ね、世界の広さと条件の異なる環境で仕事をすることの興奮と充足感に触れ、後に国連などで働く潜在的なきっかけになったように思う。

次に『国際政治』であるが、同業者で読んでいない人はいないという教科書的定番ではある。しかし1990年に大学に入って、目の前で崩れていく冷戦構造の中でも国際政治を力・利益・価値の三つの体系で見通す視座を与えてくれた本書は、表層的な現象を追いかけるだけではない、国際政治学を学ぶことの奥深さを教えてくれた一冊だった。

最後に『軍事革命(RMA)』もインパクトがあった。2000年にイギリスでの博士課程を終えて帰国し、これからの研究の方向性を模索する中で出会った一冊。大学院で欧州統合と宇宙政策をテーマに博士論文を書いたので、技術と政治の関係には目を付けていたが、もっとすごい、国際秩序が根こそぎ変化する何かが起きるんじゃないかと予感させる新書だった。そしてその予感はそんなに間違ってはいなかったと思う。

鈴木一人(すずき・かずと)

北海道大学公共政策大学院副院長・教授。1970年生まれ、英国サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大学大学院人文社会科学研究科准教授、北海道大学公共政策大学院教授などを経て2015年から現職。専門は、国際政治、大量破壊兵器不拡散、輸出管理、宇宙政策、科学技術と安全保障等。2013年から2015年まで国連安全保障理事会イラン制裁専門家パネルメンバーとして勤務。著書に『宇宙開発と国際政治』(サントリー学芸賞受賞)、『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(共編著)等がある。