2020 03/12
編集部だより

『学習まんが 少年少女日本の歴史』はすごい

新型コロナウイルスを受けての臨時休校に対応するかたちで、『学習まんが 少年少女日本の歴史』(小学館)が、2020年3月11日から4月12日までの無料公開を決定しました。

私が日本史に関心を持つきっかけは、このシリーズだったので感慨深いです。親が与えてくれたのか、自分からねだったのかは忘れてしまいましたが、少し前に実家へ立ち寄った際、1巻の奥付を見たところ、1981年10月15日初版第1刷発行、1990年7月10日第46刷発行となっていました。「現代の日本」や「平成の30年」の巻が加わったりと、現在は初版と異なる部分も相応にあるようです。  

子どもの当時はとにかく、あおむら純先生の絵に惹かれ、繰り返し読んだ記憶があります。 あおむら先生は、キャラクターの書き分けが見事で、かつ絵柄に迫力があったので、印象に強く残っています。そのおかげもあって、高校のテストや大学受験の問題で『学習まんが 少年少女日本の歴史』に登場した人名を見る度、脳内ではあおむら先生の絵がたちまち再生されました。

また、当シリーズは細部のこだわりも入念でした。たとえば長屋王の変。王の邸宅を囲むコマでは、おそらく藤原宇合が描かれ、その後の尋問の場では舎人親王と藤原武智麻呂が登場。これはおそらく『続日本紀』の記述に基づいていると思います。その直後、藤原四子が天然痘で相次いで斃れる際も、房前、麻呂、武智麻呂、宇合と史実通り。芸も細かくて、断末魔の声が「ガガガ」「ギギギ」「グググ」「ゲゲゲ」となっているんです。

あるいは以仁王が挙兵して、源頼政と平氏軍が激突した宇治川の橋合戦。ここでは急に僧兵のようなキャラクターが現れ、すぐに戦死します。これはもしかしたら『平家物語』の記述をもとに、園城寺の悪僧明俊を登場させているような気がするのですが、どうでしょう。

病床の徳川家重が後事を託そうと、息子・家治に話しかけるところでは、うまく伝わらずに側用人の大岡忠光が通訳のような役割を担います。ここは家重が言語不明瞭で、それを大岡は聞き取れたというエピソードを表しているはずです。

大きな歴史の流れを知るにも便利ですが、細部にいたるまで実にきっちりと面白く作られたシリーズ。子どもの頃に、こうした好奇心の入り口となるようなまんがと出会えたことは、幸せでした。総監修を務めた児玉幸多先生、まんがを担当したあおむら純先生のお二人とも鬼籍に入られていますが、残されたシリーズは今後も多くの読者が歴史に興味を持つ入り口の役割を果たし続けるでしょう。(T)