2020 02/03
著者に聞く

『日本の地方議会』/辻 陽インタビュー

名張市議会にて撮影(2019年11月、著者提供[撮影を許可いただいた富田真由美名張市議会議長に感謝申し上げます])

注目を集めることが少なく、たまに話題になれば不祥事のことや首長との不毛な対立……。「不要論」すら出てくる地方議会の制度、実態、課題について、第一人者が丁寧に論じた1冊が『日本の地方議会』です。
著者の辻陽さんに、本書の特長から地方政治に関心をもつきっかけとなったお父様の話まで、聞きました。

――地方議会、地方議員というと、カネの問題がとりあげられることも多く、どうしても冷たい視線が中心になってしまいます。しかし、本書を読むと、そうした見方が一面的だと気づきます。

辻:本書を書くことができたのは、ふだん真面目に議会活動・議員活動をされている「現場」の議員の方々と出会えたからこそです。初めて議会の現場にお招きいただいたときに驚いたのは、ご自身の考えを貫こうと一方的に主義主張を展開するのではなく、異なる意見を交わしながらも、時には連携し話をまとめていこうとされていた各議員の姿でした。

衆議院や参議院であれば、選挙区の異なる人同士が顔を合わせるわけですが、政令市を除く市区町村議会では大選挙区制が採られているため、選挙のときには互いに敵として相争う関係なんですよね。ですが、会派も違えば考え方も違う議員同士が、時にはお互いに考え方が異なることを認め合いつつ、それでも議会として一つになって議論を進めていこうとする姿を拝見し、正直なところを申し上げれば、感動してしまいました。

とはいえ、それですら、議員活動の一端を見ただけに過ぎません。実際にお付き合いのある議員さんは、それぞれ議会外でも住民の方に接して話を聴いたり、様々なイベントに顔を出したりと忙しく活動しています。たしかに、次の選挙に向けての集票活動といった側面がないとは言い切れません。ですが、住民の福利厚生の向上を図るために、それぞれのやり方で身を粉にして活動をされているわけですから、それこそ十分な議員報酬がなければとても生活が成り立たないと考えます。

残念なことに、議員の不祥事ばかりが報道される昨今ですから、そのような大多数の真面目な議員の活動については世間にあまり知られていないでしょう。そもそも私自身も知らないことばかりで、このたび編集者の方から勉強する機会を与えていただけたので、本書を執筆いたしました。

ところで、最初に書き上げたときには6章立てだったのですが、書き直しの段階で一度、7章立てになったんですね。私事ですが、この書き直しの時期、里帰り出産していた妻に、「いったん書き直せたから産まれた子どもの顔を見にそちらに行こうか?」と連絡すると、「もっと粘ったら」と冷たい言葉を投げかけられまして(苦笑)、その後さらに原稿を見直して、現状の5章立てになりました。自画自賛になりますが、7章立てだった段階よりは内容がコンパクトにまとまったように思います。(笑)

――地方議会が誤解されがちな一因に、住民との距離があると感じます。身近にする方法はあるでしょうか。

辻:議員定数が小さくなればなるほど、「わたしたち」有権者と「彼ら、彼女ら」地方議員との間の乖離が大きくなると思うんですよね。つまり、候補者の中から自分自身との(政策あるいはその他個人的な部分も含めた)共通点を探そうとしても、なかなか見つけられないという問題が生ずることになります。なので、たしかに「選良」という言葉はあるのですが、議員定数が小さくなりすぎると、まるで議員が「特権階級」であるかのごとく取り扱われ、「わたしたち」とは違う人々だと有権者から捉えられるようになり、批判の対象になってしまいやすくなるという、悪循環があるように思います。もちろんそれでも、わたしたち「有権者」の代表であることに間違いないのですが。

逆に、定数が大きくなると、それぞれの地元、つまりは特定の「地域」を代表する議員が増えてきますが、居住年数が短い転勤族など地元に特に愛着を持たない住民からすれば、それはそれで議員は遠い存在のままになってしまいますよね。たしかに、地域の問題を解決することも議員の重要な職務ですが、そればかりに偏っていては、つまりは自分たちが住むまち全体(自治体全体)の視点から政治行政全般を見通す視野の広さがないと、議員個々が集票対象としている住民以外との接点が奪われてしまうことにもなります。また、いうまでもなく、議員報酬をどうするかにも関わりますが、当該自治体の財政状況も勘案して、ということになると、議員定数を大きくすること自体そうたやすくはないでしょう。

このように考えると、議員定数・議員報酬をどう設定するか、正しい「解」があるわけではないですし、そのバランスの取り方が非常に難しいことがわかります。有権者に身近な地方議会の実現は、そう簡単なことではないといえるでしょう。

さらに、第4章でも記しましたように、特に政党化したうえでいわゆる「オール与党」化している議会では、「地域」の代表という側面がさらに後景に退くため、たとえ議員が多数いたとしても、個々の議員の存在感は見えにくくなりますよね。議会報告会の開催など「議会の見える化」に向けた活動を活発にされている議会や議員も多くいらっしゃいますが、まずはいかに「地方議会」「地方議員」に住民の視線を振り向かせるか、という最も困難な課題に立ち向かう必要に迫られていると思います。

――いま、地方議会は改革期を迎えているようです。改革の大きな方向性として、どうあるべきだとお考えですか。

辻:第1章そして第5章でも書きましたが、国政同様、日本の地方自治制度を考えるうえでもやはり、執政制度と選挙制度に焦点を当てて考える必要があると考えています。選挙制度については、既に神戸大学の砂原庸介先生による『民主主義の条件』をはじめとして、優れた議論がございますのでここでは触れません。それに対して、執政制度に注目した議論はあまりなされていないように私自身は考えています。そこで本書では、大統領制に近い二元代表制という執政制度に着眼して議論を展開しました。また、比較の観点を入れるために、国会議員と比較したときの地方議員の身分についても検討しました。

そして、議会の権限が非常に限定されており、それをサポートする議会事務局や図書室の体制も充実しているとは到底いえない状態にあること、それに対して条例案の提案権や再議権をもち専決処分もできる首長の権限が相当大きいことを強調しました。結果として、日本の各自治体の政治行政は、首長の一存に大きく左右されるといえるでしょう。

ですので、もし首長に就く人が各方面に目配りできるような人でない場合には、誤った方向へ走ってしまいやすい、と見ることができるかもしれません。2000年以前の自治体であれば、首長は国から委任された機関委任事務を中心に執行していればよかったのですが、地方分権改革が進展し自治体ごとに異なる自治事務を取り扱う時代に入った現在ではなお一層、首長の考えが自治体の政治行政に大きな影響を及ぼすようになったといえそうです。その点でも、首長の独断専行にストップをかける地方議会の意義はますます大きくなりますし、そのためにも多様性をもつ地方議員が必要だといえるでしょう。

そこで、改革の一つの方向性として、議会が首長の「独走」に抑制をかけられるような状況を作り出せる制度の導入が考えられます。つまり議会の権限を強化するような法改正を行ったり、議会や議員をサポートする体制を充実させる方向性がそれに当たります。少なくともここ数年の地方自治法改正は、議会の権限を強化する方向で行われてきましたが、地方分権が進み自治体への負荷が大きくなった今日では、まだ不十分であるように思います。

他方で、首長と議会がそれぞれ別個に選挙されてくることに起因する、いってみれば、議員と首長とが互いに、自分と相手とは考え方がまるで違うという不信感から混乱が生まれているケースもあります。それならば、いっそのこと憲法改正して、議院内閣制、あるいはそれに近い執政制度を導入し、議会多数派と執政長官の政策的一致度を高めることで、執政長官の独走を止めるという方法も考えられます。もちろん、この手段の実現に向けてのハードルは高いですが。

もちろん、町村議会を中心としたなり手不足問題への対応についても考えなければなりません。このときにもやはり、執政制度の観点からの検討が有意義だと考えます。財政的な問題を考えないでよいならば、議員報酬をしっかりと手当てした上で、それなりの数の議員定数を設定するという方向性もありえますが、自治体の規模が小さくなるほど議会費の割合も大きくなりますので、実現性が高いとは考えにくいです。なので、私自身、全面的に賛成するものではありませんが、「町村議会のあり方に関する研究会」で提案されたように、議員をすべて非専業とする「多数参画型」議会や、生活給を保障する少数の専業的議員と審議にのみ参加する「議会参画員」によって構成される「集中専門型」といった、これまでの画一的な地方議会制度とは大きく異なる執政制度の導入を検討する必要は、やはりあるように考えます。

いずれにせよ、本書でもっとも強く主張したかったのは、制度の多様性を目指す方向を是認せざるをえないということです。議員と公務員(行政職員)との兼職を認めるかといったこともそうです。他方で、自治体それぞれで有する行政権限や財政状況に違いがあることを考慮したうえで、自治体自身が、自分たちの「まち」に見合う形の地方自治制度を導入できた方が、地方分権が進んだ現在にマッチするのではないでしょうか。

――本書の「おわりに」でも書かれていますが、地方政治に関心をもったきっかけはお父さんだったとか。

辻:「おわりに」は父親のために書き過ぎました(苦笑)。私の父は、高校卒業後に大阪府職員となり、その後数年経ってから夜間に大学に通って学位をとった苦労人でした。また副知事の秘書を務めていた頃には土日なく働いていたので、ほとんど遊んでもらったこともありませんでした。あの頃の父親の記憶って、本当に議員手帳を眺めたことぐらいしかないんですよ。働いて生活を支えてくれた父と、そして父が留守の間家庭を守った母への感謝の気持ちを込めて、「おわりに」を書きました。ともあれ、我が家は決して裕福ではありませんでしたし、秘書といっても国会議員の秘書のようなものではございませんし、我が一家には地方議員含め政治家がまったくいませんので、その点はこの機会に断っておきます。(笑)

ただ、社会科や政治そのものについては昔から好きでした。小学校中学年の頃の地域学習も楽しかったですし、中学社会の公民分野にも関心がありました。そういえば、中学社会の「歴史」や高校「日本史」・「世界史」ではあまり扱わない戦後史、現代史が好きでした。1960年代から80年代にかけてのフォークやニューミュージックも好きでしたし……(話し出せばキリがないのでこの辺でとどめます)。とはいいながら、もともとは算数や数学の方が得意でした。ですが、高校に入ると、物理はできないわ、化学はモル計算ばかりで面白くないわ、と理系科目が嫌になり、大学受験を前にして法学部を目指しました。

大学に入ったときには、法曹三者を目指す道もあるなぁと思いましたが、大学1年のときに履修した「法学入門1」は68点、「法学入門2」は30点、それに対して「政治学入門」は82点でしたので、これでほぼ道が決まりました(苦笑)。履修できる科目の種類に縛りがなくなった3年生には政治学系科目を片っ端から履修し、それだけでは卒業に必要な単位が揃わないので、政治に関係の深い「権力」が関わる「国際法」や「行政法」といった科目を受講しました。そうして、せっかくここまで政治学の勉強もしたことだし、もう少し続けたいなと思うようになって大学院進学を目指し、紆余曲折がありながらも現在に至る、という感じでしょうか……。

――次に取り組みたいテーマを教えてください。

辻:今回本書を執筆して痛感したのは、海外の地方議会の事例について、自分自身が全然知らないという事実でした。たしかに、国内でも議員報酬の額や地方議員の選挙について紹介した文献はありますが、実際に各議会で議員がどのような活動を行っているのかといったこと、本書でいえば第2章で述べた内容ですが、これについては邦語文献ではなかなか出てこないんですよね。私の勉強不足のためでもあるのですが。

もちろん、有権者が政治的意思を表明できる重要な機会、つまり選挙についての研究は重要ですし、多くの優れたものがあります。ただ、選挙結果の帰結がどのように議会過程や議会での議決、つまりは政策決定につながっているかをもっと意識する必要があるように、前著(『戦後日本地方政治史論』)を執筆した段階から私自身は考えてきました。

ですので、本書の第5章で展開したように、地方議会制度あるいは自治体レベルの執政制度についてバリエーションをもつ、アメリカの事例をつぶさに観察して、日本とアメリカの比較研究を行ってみたいと考えています。

それからもう一つは、首長研究ですね。前に、多選首長に関する論文を書いたことがあるのですが、これについてももう少し深掘りしてみたいと思っています。日本における二元代表制を理解するためには、議会研究・議員研究をするだけでは不十分であり、首長側についてもしっかりと分析しないといけないと考えています。首長と地方議会は車の両輪だと言われる際に議会の重要性が説かれるのですが、だとするならば、議会・議員研究に加えて首長研究もしなければ、日本の自治体政治行政制度を十分に研究したことにはならないでしょう。また、地方分権が進展して自治体間の「差」が強く意識されるようになった時代における首長の特徴についても、比較検討を加える必要があると考えます。なので、できれば国際比較の観点も採り入れながら、日本の首長にまつわる制度や実態、さらにはお金の話についての分析も行いたいと思います。まぁ、言うのはタダですので。(苦笑)

とはいいながら。本書は私にとって2冊目の単著でして、1冊目は自分の大学院時代の指導教授に、2冊目は自分を育ててくれた実家の家族に、それぞれ捧げたのですが、できたてほやほやの本書を妻に渡したときの話です。「次の単著は自分たち家族に捧げるから」と妻に言うと、「3冊目はいつ書くの?」と即座に返されました……。ですので、できるだけ早く次の単著を完成させるように頑張りたいと思います。

辻 陽(つじ・あきら)

1977年、大阪府生まれ。99年、京都大学法学部卒業。2001年、京都大学大学院法学研究科修士課程修了。03年、京都大学大学院法学研究科博士後期課程中退。京都大学博士(法学)。近畿大学法学部講師、同准教授を経て16年より同教授。著書に『戦後日本地方政治史論―二元代表制の立体的分析』(木鐸社、2015年、日本公共政策学会学会賞奨励賞)、『現代日本の政治―持続と変化』(共著、法律文化社、2016年)など。