2019 02/08
編集部だより

本はいつ世に出るか?

毎年買って使い続けている紺色の表紙の能率手帳

 このごろでは、SNSなどで読者の声をダイレクトに知ることができるようになった。自分が編集した本に関して、「〇〇〇〇の時期に合わせて出版したんだな、きっと」などと書かれているのをときどきに目にすることがある。ですが、すみません。そうでもないんです。多くの場合、頂いた完成原稿を急いで編集した結果であって、言ってしまえば成り行きなんです。

 たとえば「作家××××の没後10周年まであと3年か。急いで評伝の執筆を依頼して、ベストのタイミングで出すぞ」などと、いわば「逆算」方式で本の企画を立てる編集者は、意外と少ないのではないだろうか(いることはいるでしょうが)。もし企画しても、間に合うように原稿を書き上げてもらえるとは限らない。経験上、さまざまな理由により、とかく原稿執筆というのは遅れるものなのだ。そうなれば努力は水の泡となる。

 では、どうするかといえば、単純すぎるようだけれど、タイミングに左右されない「強い企画」を目指すのが一番と勝手に思っている。

 ここ最近出版にこぎ着けた本について、企画スタートから出版までの年数を調べてみると、短いもので3年弱、長いものだと6年以上かかっている。いずれも、その道の専門家が趣向を凝らした力作ばかり。かかった時間のぶんだけ、中味も熟成されている。待った甲斐があるというものだ。遺漏なきよう、編集作業にもなるべく手間ヒマをかけたい。そうもいかないのが実情なのだが......。

 手っ取り早くお金になるのが善とされるこのご時世、時間をかけてつくられる本は稀少。ワインのオールド・ヴィンテージではないけれど、じっくり時間をかけることで内容に深みが増せばいいなあ、と思っている。(波)