2018 05/29
私の好きな中公新書3冊

それぞれの〈ぼく〉と3冊/紙屋高雪

山本昭宏『核と日本人 ヒロシマ・ゴジラ・フクシマ』
岡田一郎『革新自治体 熱狂と挫折に何を学ぶか』
中川剛『町内会 日本人の自治感覚』

ネットでは得難い「書籍のアドバンテージ」の一つに、断片的ではなく、「歴史の体系として事物を捉える」という点がある。しかも、ぼくは何かの専門家ではないので「それをハンディな形で手に入れたい」という図々しい要求をする。以下は、そんな都合のいい願いに応えてくれる中公新書の3冊だ。ぼくの中に棲む〈3つのぼく〉の各々に即して紹介しよう。

〈オタクとしてのぼく〉が挙げたいのは『核と日本人』。核兵器や原発の戦後日本におけるイメージを、論壇だけでなくマンガや映画などポピュラー文化からも把握しようとする。核による惨禍が起きるたびに、その痛みを訴えて共感を広げる方法の意義と限界を指摘するくだりは本書の白眉である。

〈サヨクとしてのぼく〉が挙げたいのは『革新自治体』。日本は、実は人口の過半数が左翼地方政権=革新自治体のもとで暮らした歴史を持っている。本書を読んで、革新自治体の政策は政治学者・松下圭一の「シビル・ミニマム(自治体が保障する最低限度の生活環境基準)」論への同意や批判を軸にして鍛え上げられていった印象を受けた。革新自治体が終焉した理由の一つを中道政党へのウイング拡大の失敗として見る本書は、現在すすむ「野党共闘」路線の発展方向を考える上でも有益だろう。

〈地域で暮らすぼく〉が挙げたいのは『町内会』。ぼくは町内会長を経験し、町内会に関する本をいくつか書いたが、その中で本書を大いに参照させてもらった。戦後のGHQによる「町内会廃止」を軸に、米国型の市民社会をどう移植しようとして、しかし日本人の自治感覚の前にどう挫折したかを描いているのが類書にない特徴だ。ぼくたちの社会は依然としてこの戦後改革の軌道の上を走り続けている。

紙屋高雪(かみや・こうせつ)

1970年愛知県生まれ。京都大学法学部卒。ブログ「紙屋研究所」でマンガ評論や育児論、社会時評をつづり、人気を博す。
著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)、『超訳マルクス』(かもがわ出版)、『“町内会”は義務ですか?』(小学館新書)、『どこまでやるか、町内会』(ポプラ新書)、『マンガの「超」リアリズム』(花伝社)など。