- 2017 08/28
- 私の好きな中公新書3冊
東秀紀『漱石の倫敦、ハワードのロンドン 田園都市への誘い』
山室信一『キメラ―満洲国の肖像』
浜本隆志『鍵穴から見たヨーロッパ 個人主義を支えた技術』
てっとり早く不案内な分野の見取り図を描きたい時も、自分の専門分野をちょっと新しい視点から眺めてみたい時も、はたまた読書のための読書をしたい時も、新書というジャンルはありがたいものだ。ここでは私の専門である建築史・表象文化論から、印象に残った著作を思いつくままに挙げておきたい。
一見無関係な情報が思いもかけず繋がるというのは、読書の醍醐味のひとつだろう。夏目漱石のロンドン留学と、エベネザー・ハワードの田園都市運動という、およそ無関係に見えるトピックを結びつけた『漱石の倫敦、ハワードのロンドン』は、そのような意味でまさに心地よく盲点を突いてくれる。著者の東秀紀は、全く異なるフィールドで活動したこの二人を、しかし共に都市ロンドンが体現する「近代の限界」と格闘した存在として、鮮やかに描き出していく。
満州の都市計画に興味をもった際に手に取ったのが、満州国史の定番というべき山室信一の『キメラ―満洲国の肖像』だった。東京よりもはるかに「近代的」な都市として計画された満州国の首都新京と、そこに出現した中華風・和風・モダニズムの入り混じったキメラ的な建築。本書による満州国そのもののキメラ性の徹底した分析なしに、なぜこのような都市や建築が出現することになったのかを理解することは不可能だろう。
『鍵穴から見たヨーロッパ』は、鍵と錠前の歴史を古代から近代まで、あるいはヨーロッパの職人ギルドの歴史から図像学、文学まで、さまざまな角度から切り取るユニークな本。建築物を総体としてではなく、鍵や錠前のような部分から見てみると、通常の建築史とは異なる世界が開けてくるようで(鍵穴だけに...)楽しい。