2017 08/22
都市の「政治学的想像力」

(第9回)長い夏休みをどう過ごすか

バンクーバーでは、夏休みのキャンプ向けの様々な小冊子を手に入れることができます。

カナダの小学校の夏休みは日本よりも長く、7月頭から9月の第1月曜日(「レイバー・デー」と呼ばれる祝日)までの約2か月間に及びます。カナダ西部は北海道よりも北に位置するくらいなので、それほど暑くもなく、好天が続く過ごしやすい夏休みとなります。ただ、2017年は非常に乾燥していて風が強く、私の住むブリティッシュコロンビア州では、森林地域を中心に、100か所以上で山火事(wildfire)が頻発しています。一時期は山火事が一部の町に近づいて避難勧告も出ていましたし、最近では山火事の影響でバンクーバー市でも大気汚染のような状況が生じていると言われています。

さて、子どもたちが学校に行かないということは、当たり前ですが学校に頼っていた時間、家庭で子どもの世話をしなくてはならず、夏休みが長いとその分大変です。特に小学校、それも低学年となれば、自分ひとりで行動できない一方で、エネルギーを発散させる必要があるので親たちも毎日何とか付き合っていかないといけません。しかし、共働きの家庭は特にそうですが、親だけで何とかするのも難しいために、夏休みに子どもたちを世話するプログラムがいろいろと用意されています。

私の周りでは、地域に作られている「コミュニティセンター」(公民館のようなもの、でしょうか)に、1週間1万円程度で子どもを一日7時間預かる「キャンプ」があり、共働きの家庭によく利用されているそうです。他にも近所ではYMCAなどが比較的長時間子どもを預かるプログラムを用意しているとか。いずれも公的なプログラムで、相対的に安価に提供されています。

プログラムによっては入るための競争が激しく、応募開始時刻には親たちがインターネットにつながったパソコンの前で待機していて、人気のライブチケットのように、時間になったらすぐに埋まるという状況があるようです。ただこのようなプログラムは休み中の大学生の稼働で成り立っているようで、基本的に小学生以上が対象になっています。乳幼児であれば、通常と同じ(主に私立の)保育所を使わざるを得ないということになるでしょう。

丸一日でなくても、市の教育委員会から提供されている、たとえば1日3時間で3週間のプログラムもあります。私の長男は、ある小学校で行われていた科学のプログラムに参加して7月を過ごしました。一つのプログラムなら無料で、複数取るとその分費用がかかるということになっています。そのようなプログラムは、教育委員会だけが提供しているわけではなく、コミュニティセンターや私が所属しているブリティッシュコロンビア大学が主催するサマーキャンプなど(こちらは有料)、多岐にわたります。

いろいろプログラムはあるのですが、時間厳守で親が迎えに行く必要があるのも特徴です。また長い夏休みなので、子どもたちも退屈するし、親たちの負担も大きくなります。そうするとやはり家族で本当の「キャンプ」にでも行かないと間が持たないということもあるような気がします(それもそれで疲れますが)。欧米の人々が長い休暇を取って優雅に過ごす、と言われたりもしますが、ある程度長い休暇は子どもと一緒に長い夏休みを過ごすために必要であるのかもしれません。

砂原庸介(すなはら・ようすけ)

1978年大阪府生まれ。2001年東京大学教養学部総合社会科学科卒業。日本学術振興会特別研究員、大阪市立大学准教授などを経て、神戸大学法学部准教授。博士(学術)。専門は政治学、行政学、地方自治。著書に『地方政府の民主主義』(有斐閣)、『大阪―大都市は国家を超えるか』(中公新書)、『民主主義の条件』(東洋経済新報社)、『分裂と統合の日本政治』(千倉書房)。共著に『政治学の第一歩』(有斐閣ストゥディア)などがある。