2017 05/20
都市の「政治学的想像力」

(第6回)選挙の風景

投票所へのシンプルな案内が各所に立てられています。

5月9日(火曜日)に、カナダのブリティッシュコロンビア州の州議会選挙が行われました。今回の選挙は、選挙直後には結果がはっきりしていないほどの接戦で、おそらくそれもあって、選挙前には有力な3つの政党の党首を呼んだテレビ討論会なども含めて、地元メディアで大量の報道がなされていました。州だと規模も大きいから当然だと思われるかもしれませんが、ブリティッシュコロンビア州の面積は非常に広いものの(日本の国土面積の約2倍)、人口は450万人程度(日本の都道府県で9番目の人口である福岡県より少ない)です。その人口の半分以上は「メトロ・バンクーバー」と呼ばれる最大都市バンクーバー市の通勤圏内に住んでいます。

日本の地方選挙では、大阪都構想の住民投票のような特殊な選挙でもないとメディアはあまり注目しません。対して、連邦制で地方分権が進んでいるカナダでは、州の選挙であってもその結果が生活に関係することも多いので、関心が高くなるようです。また、日本では、大事な地方選挙になると、国政政党の幹部が候補者の応援に来るのをよく目にしますが、カナダではそういうことはありません。

国政で政権を握る自由党(Liberal Party)と同じく「リベラル」と呼ばれる政党(Today's BC Liberals)がブリティッシュコロンビア州で政権を握っていますが、両者は基本的に異なる組織なので、トルドー首相が応援に来るようなことはありません。また、国政で自由党と対立する保守党(Conservative Party)と同じ政党はそもそも地方政治には存在しません。......あえて言うと一番近いのは「リベラル」(=Today's BC Liberals)だということで混乱しますが、要するに、国政とはほとんど関係なく地方選挙を行っているわけです。

この選挙を運営しているのも、国の組織ではなくて、Election BCという独立組織です。選挙の際は、Election BCが小学校の一部などを借りて投票所とするのですが、上述のように選挙が行われるのは火曜日、つまり普通に学校がある日なのです。私の長男が通う小学校も投票所になっていて、そこを見学させてもらいました。そこでは、小学校高学年の生徒たちがElection BCのスタッフから選挙についての説明を受けている様子を見ることもできました。このように投票所が身近にあって、大人が実際に投票する様子を見ていることは、政治教育としても重要ではないかと思います。家に帰れば自分の家族に投票したかどうかを聞くでしょうし。

投票の仕方は、投票用紙に書かれた政党・候補者の名前を選ぶ記号式の投票です。日本と同じで、電子投票は導入されていないようです。投票所は事前にElection BCによって指定されており、投票に来た人が会場に入ると、IDのチェックを受けて、住んでいる場所によって違う投票箱の前に誘導されます。ただ、指定されている地域外に住む人々でも、選挙区が違っていても、投票が可能になっています。不在者投票(Absentee Voting)ということで、投票したものを自分の住む選挙区に郵送されて開票されます。

この不在者投票の開票は2週間後となっています。普通は投票日の開票による暫定的な集計で結果が決まって、政権が作られていくのですが、今回は大接戦のためにこの不在者投票が暫定的な集計の結果を変える可能性が残されています。今のところ、議席87のうち、Today's BC Liberalsが43議席、新民主党(New Democratic Party:NDP)が41議席、緑の党(Green Party)が3議席となっていて、「リベラル」があと1議席で過半数です。この状況でNDPがわずか「9票差」で上回っている選挙区があるのです。さて結果はどうなるでしょうか。

砂原庸介(すなはら・ようすけ)

1978年大阪府生まれ。2001年東京大学教養学部総合社会科学科卒業。日本学術振興会特別研究員、大阪市立大学准教授などを経て、神戸大学法学部准教授。博士(学術)。専門は政治学、行政学、地方自治。著書に『地方政府の民主主義』(有斐閣)、『大阪―大都市は国家を超えるか』(中公新書)、『民主主義の条件』(東洋経済新報社)、共著に『政治学の第一歩』(有斐閣ストゥディア)などがある。