2017 04/25
著者に聞く

『ストレスのはなし』/福間詳インタビュー

誰しも感じているストレス。しかし、どれだけストレスに苦しんでも、原因や対処法は漠としているのではないでしょうか。元自衛隊精神科医官で、現在は開業して診療を続ける福間詳さんが、『ストレスのはなし』を上梓されました。福間さんの30年以上の研究と臨床での経験をわかりやすくまとめた本書について、執筆の背景などうかがいました。

――はじめに、本書ご執筆の動機を教えてください

福間:実は私は、外科医を夢見て医学部に入学しました。

しかし、大学5年生の時、臨床教育が始まって間もない頃にローテーションで巡り合った精神科の医局の先生方の優しさと、一風変わった人柄に強く引き付けられたのです。私自身「精神医学」はよく解らないものという印象がありましたが、逆に未知の魅力に引き寄せられ、精神医療の道を選択しました。

大学や卒業後の精神医学の教育で、統合失調症やうつ病の病態や治療法については、先輩からの指導や教科書、雑誌などで多くを学ぶことができます。

ところが、ストレス障害のメカニズムや治療法に関しては学ぶべき教材がほとんどありませんでした。ストレスに起因する疾患は、当時は「心因性疾患」としてひとくくりにされていたように思います。

個人的な印象ですが、特に1998年頃から、ストレスに起因した精神症状の患者さんが激増した気がします。例えばパニック障害や、職場の人間関係のこじれなどによる不適応、育児ストレスに伴う情動不安定など、精神医療で主流であったうつ病と統合失調症以外の精神症状です。

以前在籍していた防衛省でも、2003年からのイラク戦争における自衛官のストレスが大きな問題となりました。

2006年、防衛省を退職してクリニックを立ち上げましたが、外来の診察でストレス障害の患者さんの多さに驚かざるを得ませんでした。

ストレス障害に関するまとまった本はありませんし、ネットなどを調べてみても、その対処方法はバラバラです。幸いなことに私は、防衛省でストレスに関する研究や臨床を経験していたこともあり、経験をもとにクリニックでも臨床的な実践を10年近くおこなってきました。

昨年、中公論新書編集部の太田さんから執筆の依頼を受け、臨床において確認できた有効な知見をまとめ、多くの方に知って頂きたいと考えました。『ストレスのはなし』で述べたことは、実際のストレス障害の患者さんに現在も指導実施している内容になります。

――本書のポイントは何でしょうか

福間:ストレスという用語は、最近ではさまざまな場面で見聞きします。

しかし、その実態を正しく認識できている人は少ないですし、人によってその受け取り方も大きく異なっています。たとえば、「ストレスに弱い人=精神的に弱い人」と考えている人も少なくありません。

ストレスに対処するとき、スタート地点である「ストレス」に対する認識が異なっていては、正しい対処はできません。

執筆にあたって、ストレス発生のメカニズムや、ストレス障害にいたるまでの過程、さらに対処方法などを、それぞれわかりやすくするよう心がけました。通読すれば、ストレスについて体系的な知識が得られるよう、さらに、日常生活における多くのストレスをうまくコントロールするためのマニュアル本としても活用していただけるようにしました。

――ストレスへの関心はいつ頃から、どのようなきっかけがあったのでしょうか

福間:1998年に、自殺者の急増がありました。当時、私は防衛省内で自殺防止のために自殺要因分析を行っていました。防衛省での自殺事案でも、うつ病などの精神疾患による自殺ではなく、借財や職場の人間関係を主な原因としたものが急増したのです。

また、パニック障害が大きく取り上げられた時期でもありました。精神科領域の診療において、この頃から急激にストレスの問題に取り組む必要性が増しました。

さらに、イラク復興支援で、現地の自衛官の診療をおこなったことで、ストレス症状が凝縮された姿を垣間見た気がしました。帰国後にストレス障害に陥った多くの隊員の入院治療も実施しました。そこで改めてストレス障害の恐ろしさを知り、ストレスコントロールが将来の精神科医療の中心になることを確信したのです。

――執筆中のエピソードなどございましたら

福間:誤解されることもありますが、精神科医療は人生相談ではありません。

有効な薬物療法を行うことは当然ですが、患者さんが置かれた状況や状態に関して適切なアドバイスを求められます。患者さんの状況はそれぞれ異なりますから、多くの引き出しを準備しておく必要があります。

本書の執筆は、私の引き出しの整理になりました。どのように説明をすれば理解しやすいのだろうかと自問自答しながら書いていました。
 
診療前や昼休みを利用して書いておりましたので、かなり多忙でした。しかし、自分自身楽しみながら執筆することが出来たと思います。

――今後のお仕事についてもお教えください

福間:私も本年で還暦を迎えます。クリニックでの診療は70歳くらいまでを考えています。今後の10年間は、よりストレス障害に注目し、新たな知見を発信続けていきたいです。

――最後に読者へのメッセージをいただけますか

福間:人は生きている限り、ストレスにさらされ続けます。つまり、ストレスとはずっと付き合っていかなければならないということです。私の30年にわたる調査研究や診療経験を、わかりやすく執筆しました。ストレスに立ち向かった、あるいは負けてしまった患者さんを診てきた知見をまとめた一冊です。ストレスへの備え方、闘い方を具体的に述べました。実際にストレスに悩んでいる方に手にとっていただき、少しでもストレス対処に役立つことを願っています。

福間詳(ふくま・しょう)

1957年、島根県生まれ。83年、防衛医科大学校卒業。85年から自衛隊中央病院などに勤務。2003年より自衛隊中央病院第二精神科部長。04年からイラク・サマーワの自衛隊宿営地にて自衛官のメンタルヘルス支援を行う。06年に退職。現在、横浜港北メンタルクリニックを開業し、理事長をつとめる。医学博士。主な研究として、自殺に関連する関係者の心理的影響、特殊環境下における急性ストレス障害の予防・治療など。共著に『自殺のポストベンション』(医学書院,2004)、『健康管理室で役立つ心の医学』(南江堂,2005)などがある。