2017 02/15
私の好きな中公新書3冊

本屋の周縁/内沼晋太郎

歌田明弘『本の未来はどうなるか 新しい記憶技術の時代へ』
加藤幹郎『映画館と観客の文化史』
寺尾隆吉『ラテンアメリカ文学入門 ボルヘス、ガルシア・マルケスから新世代の旗手まで』

本棚に『本の未来はどうなるか』が見当たらないと思ったら、スキャンしてPDFにしていたのだった。ディスプレイで開いてみると、新書よりも大きい。奥付には2000年11月発行とあり、奇しくも1995年にサービスを開始したAmazon.comが日本上陸を果たしたその月だ。言及があるかと探し、見つけた「アマゾン」という文字列は一ヶ所、巻末の既刊目録に含まれていた『アマゾン河』という新書のタイトルだけであった。スキャンの際にOCRをかけているから、検索すればすぐにわかる。著者はインターネットが浸透し、あらゆるものにコンピュータが搭載されるであろう近未来を指して「こうした『本の彼方の世界』から見ると、本の中の情報空間がいかに『紙の束』に閉じ込められているかに気づく」と記している。内容が本質的に古びていないことには随所で驚かされるが、閉じ込められた「紙の束」のつもりで世に放った本を、十数年後の読者が個人的に電子化し検索対象にしているとは、著者もきっと想像していなかったに違いない。大学2年生のぼくを「本の未来」に誘った、思い出深い本のひとつだ。

とはいえ、いまの自分にはむしろ、本以外の世界が参考になる。とくに2006年刊の『映画館と観客の文化史』は最高の一冊。映画をめぐってはここ数年、定額の動画配信サービス以降さらにドラスティックに変化してはいるが、上映する「館」がないことにはビジネスとして成立しなかった歴史が長い。単体で再生も販売も可能な紙の本とは、近しいようで対照的だ。その「館」の歴史に、本にとっての「館」であるところの本屋が学べることは多い。一方、誰かが本書のように優れた「書店と客の文化史」を書いてくれないだろうかとも、ずっと思っている。

そして、昨年の個人的ベスト中公新書は『ラテンアメリカ文学入門』。単なる文学案内にとどまることなく、出版産業の側面からブームの到来と衰退、その最中における有名作家の心のありようにまで迫る。思いのほかおもしろく描かれていて、ぐんぐん読んだ。

内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)

1980年生まれ。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。東京・下北沢「本屋B&B」共同経営者。ほか、青森県八戸市の公共施設「八戸ブックセンター」ディレクター、読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサーなどをつとめる。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)、『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)。