- 2017 02/06
- 私の好きな中公新書3冊
工藤庸子『プルーストからコレットへ いかにして風俗小説を読むか』
加藤文元『ガロア 天才数学者の生涯』
金森修『動物に魂はあるのか 生命を見つめる哲学』
新書といっても色々な種類のものがあるが、中公新書は自分にとっては「背筋をただして読む本」の部類に入る。一冊一冊が重量級で、ある世界を内包している。容易に読み飛ばすことが出来ない。
『プルーストからコレットへ』は、世紀末のパリを生きた二人の作家を主に扱っている。プルーストはフランス文学の中でも高尚な作家とみなされるのに対し、コレットは通俗的な女流作家として軽く扱われがちであった。しかし本書は両者に脚光をあてて、ある時代の互角な証言者としてみせる。当時学生であった私に、文学研究の心意気を伝えた書であったと思う。
『ガロア』はご存じの通り、10代で歴史に残る数学的発見を行い、20代で短い生涯を終えた伝説的な数学者である。本書はフランスにおける近年の研究を踏まえつつ、神話化されやすいガロアの等身大の姿に迫っている。パリを旅しているような歴史的細部の楽しさを備えつつ、初心者にやさしい数学史的背景の提示や、現代数学を踏まえた解説を怠らない。恐るべき本である。
最後に、『動物に魂はあるのか』である。専門分野の関係上、著者の故金森修氏のことはよく存じ上げていた。本書は震災の翌年に出版されたが、単なる「動物の哲学」(思想が動物をどのように語ってきたか)の解説書ではない。読み進めるうちに、人間という存在が持つある種の「凄まじさ」、そして矛盾が露わとなる。迷いながら氏は言葉を紡ぐ。あえて微温的に、常識的に迷ってみせる。そのことがかえって思想となる。あれは2011年であったか、酒席で氏が「人文学の魂」という言葉をふと口にされたことがあった。本書にはその一端が見いだせるように思う。