2017 01/13
都市の「政治学的想像力」

(第2回)住まいを探す

バンクーバーでインド系の人々が多く暮らす地域。この一角はパンジャブ・マーケット(Punjabi market)と呼ばれている。

新しい都市への移住は、まず住まい探しから始まります。億万長者ならばともかく、普通の人が新しい土地でいきなり住宅を買うということはまれでしょうから、基本的には誰かに住まいを借りなくてはいけません。親戚や知り合いがいれば、まずはそこを頼ってしばらく身を寄せて、慣れてきたら自分で住宅を借りるケースは日本でもしばしば見られます。知り合いを頼って住み始める人たちが多いと、ある地域に同じような出身の人々が集まっているのを観察することができます。私が住むバンクーバーは非常に移民の多い都市ですが、中国系・インド系の人々がそれぞれ集住している地域などははっきりしていて、その地域に住めばそれぞれの地元の言語で生活することも不可能ではありません。

もし仕事の都合で新しい都市に住むとすれば、企業など所属する組織が住宅を世話してくれるかもしれません。日本から外国に派遣される人の場合には、「社宅」というほど大層なものではなくも、その都市に駐在して仕事をする人が代々利用している住宅を引き継ぐケースもあります。極端ではありますが、わかりやすい例でいえば、外務省の総領事の「公邸」のようなものが挙げられるかもしれません。もちろん現地で所属した組織が住宅をあっせんしてくれることもあるでしょう。私が今所属しているブリティッシュコロンビア大学でも、短期滞在の研究者に対して比較的安価に住宅を提供するサービスがあります。ただし、希望者が多いので順番待ちになりますが。

そのような当てがない場合は自力で住宅を探すことになります。日本ではまちの不動産屋などに行って、物件情報を見て仲介を依頼することがほとんどでしょう。しかし、バンクーバーでは日本のような不動産屋を見ることは多くありません。もちろん同じように貸し手と借り手の間に入ってくれる人がいないわけではなくて、日本語で仲介をしてくれる人もいますが、その人たちには現地を知っている「代理人」として働いてもらうわけで、それなりに高い仲介手数料(=エイジェンシー・フィー)が必要になります。日本だと不動産屋の仲介手数料はだいだい家賃0.5-1か月分が相場ですが(正確に言えば、上限が1.05か月で、原則は貸し手と借り手が折半。ただ、どちらかといえば借り手負担の方が大きい傾向にあるようです)、こちらではもう少し高くつくようです。

現地をよく知っている代理人にお願いするのは望ましいですが、どんな代理人がよいのかはわからないのは悩ましいところです。お金だけたくさんとられて変な住宅を紹介されるかもしれないこともあるので、簡単には信頼できません。移民が多い地域なのに、そのような代理人のサービスがあまり発達していないように見えるのは、信頼できる代理人を探すことが難しいことに起因するようにも推測できます。ただそれはそれとして、移住したい人は新しい住宅を探さないといけないことには変わりません。

そこで利用されるのがクレイグズリストキジジのようなインターネットのサイトで、ある程度条件にあった住宅を絞りこみ、その家主と一対一で交渉することになります。そこで、今度は「この借り手は住宅をきれいに使うのか、家賃をちゃんと払ってくれるのだろうか」と品定めをする家主とのやりとりが行われることになります。自分が信頼に値する借り手だと示さなければいけないのです。

砂原庸介(すなはら・ようすけ)

1978年大阪府生まれ。2001年東京大学教養学部総合社会科学科卒業。日本学術振興会特別研究員、大阪市立大学准教授などを経て、神戸大学法学部准教授。博士(学術)。専門は政治学、行政学、地方自治。著書に『地方政府の民主主義』(有斐閣)、『大阪―大都市は国家を超えるか』(中公新書)、『民主主義の条件』(東洋経済新報社)、共著に『政治学の第一歩』(有斐閣ストゥディア)などがある。