- 2016 11/18
- 知の現場から
ジャーナリスト、評論家、大学教授と多彩な顔を持つ武田徹さん。メインフィールドは社会学、メディア論。1980年代半ばからジャーナリズムの世界に入り、主に現代社会やデジタル・デクノロジーの問題について論じてきた。その創作の現場とは――。
「神保町の自宅、練馬の実家、そして多摩にある大学と、本やパソコンを分散して置いています。自宅には今手がけている仕事の資料や参考文献、実家には書評を執筆した本、大学は授業で使うメディア論の本ですね」
パソコン類は「自宅兼モバイル用にMacBook、実家と大学に赤いLet's noteがそれぞれ1台、さらにiPad miniにキーボードを付けて携帯しています」。ちなみにスマートフォンはXperiaだとか。「写真の画質がいいんだよ」と微笑む。趣味はカメラ蒐集でもある。
5年前に吉祥寺の一軒家から、神保町へ引っ越し、膨大な本を処分した。「既読かつ、図書館では入手困難な本はPDF化しました」。その冊数は3000ほど。128GのUSBに入れて持ち歩いているという。ただ「何をPDF化したか忘れてしまう。本は表紙などのヴィジュアルで記憶していることをあらためて感じました。背表紙だけでもまとめて撮っておけばよかった」。
2年前、母親がひとりで暮らす練馬区の実家に週末戻るため、10坪ほどの書斎兼宿泊施設を設けた。建築家に依頼し、無駄を徹底的に省いた静謐な作りである。「でもここでは書かないですね。近くのマクドナルドに行って書きます」と笑う。
インプットの現場は自宅・実家・大学だが、アウトプット、つまりは執筆の現場はほとんど近隣のカフェと言う。「90年代末からですね。神保町に引っ越してからは、大学勤務がないときは、朝9時から夜8時頃まで1日3、4軒を回っています」
そのほとんどが、スタバ、ドトール、エクセルシオール、ヴェローチェ、上島珈琲、マクドナルド……といったチェーン店。神保町にはカフェの名店も多いし、立派な書斎や研究室もあるのだが、なぜチェーン店系のカフェなのか。
「周囲に知らない人がいる第三者の視点が重要なのかな。仕事をしなければという雰囲気になる。家に籠もるとついついテレビなど見てサボってしまう。チェーン店系のカフェにはWi-Fiが飛んでいることが多く情報アクセスは容易。データが入ったUSBもあるしね」。ポケット・ルーターもあるがほとんど使わなくても大丈夫だと言う。
〆切が迫っていると、Boseのノイズキャンセリング・イヤホンをして、ムーンライダーズやプログレをかけながら、一心不乱にカフェで原稿を“打つ”。「僕は打圧が強いようで、執筆にのってくるとキーの音がうるさいらしい。気が付くと周囲のお客さんがいなくなっていたことがあった。以後気をつけてます」と笑う。
多様なテーマで執筆活動を続ける武田さん。通底しているのは何かと尋ねると、「かっこいい言い方をすれば、みんながそれほど不幸にならずにすむにはどうしたらいいか。それを考えること」と語る。
今日も武田さんの原稿が、神保町のスタバやマクドナルドから生み出されている。