2016 10/20
知の現場から

細谷雄一の仕事場

 昨年から今年にかけて単著3冊(『歴史認識とは何か』『安保論争』『迷走するイギリス』)を刊行した細谷雄一・慶應義塾大学教授。その旺盛な執筆活動を支える書斎とは?

 自宅マンションを訪ねた編集者とカメラマンに対して、細谷さんは「では、こちらからご案内しましょう」と、なぜか玄関を出て行く。もと来たマンションの廊下を30秒ほど歩いたところで、「アネックス(離れ)です」と案内されたのは「第2の書斎」として使われている別室だった。

 引っ越し業者に「このままだと床が抜けますよ」と言われるほど大量の本に悩まされていた細谷さん。7畳ほどの広さの別室付きという条件に惹かれて、この部屋を契約したという。メインの部屋にある第1の書斎は執筆などの仕事用に、歩いて30秒の第2の書斎は息抜きの読書用に使われている。

「第1の書斎には、いま取り組んでいる研究や授業、講演で必要な本や、レファレンスになる本を置いています。第2の書斎にあるのはモンテーニュに、村上春樹さんや粕谷一希さん......リフレッシュするための本ですね」

 ご本人の言うように、「他の研究者に恨まれそう(笑)」なほど恵まれた、役割の異なる2つの書斎という環境。これこそが、立て続けに刊行される力作を生み出した「知の現場」だった。

「アネックスに友人を呼んでビールでも、と思っていたんですが、忙しくて実現していません」
机脇の一等地にある「村上春樹コーナー」。細谷さんは大の村上ファン。
居室にもアネックスにも、中公新書コーナーが。
寄稿した論壇誌が並んでいる。論壇誌デビューの『論座』2006年1月号や、高坂正堯没後10年座談会(五百旗頭真氏、前原誠司氏と)が掲載された『中央公論』2006年12月号なども。
『国際秩序』は2012年に中公新書50周年記念作品のひとつとして刊行。高坂正堯『国際政治』などにつづく中公新書の国際政治作品のスタンダードとして版を重ねている。
机からは東京湾が見える。「たくさんの本に手が届くよう、机は部屋の中心に置く主義だったのですが、海が見えるので窓際にしました」

細谷雄一(ほそや・ゆういち)

1971年千葉県生まれ。慶應義塾大学法学部教授。立教大学法学部卒業。英国バーミンガム大学大学院国際関係学修士号取得。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(法学)。北海道大学専任講師などをへて現職。『戦後国際秩序とイギリス外交』(創文社)でサントリー学芸賞、『外交による平和』(有斐閣)で政治研究櫻田會奨励賞、『倫理的な戦争』(慶應義塾大学出版会)で読売・吉野作造賞を受賞。