2016 10/20
著者に聞く

『欧州複合危機』/遠藤乾インタビュー

たび重なるユーロ危機や難民流入、続発するテロ事件、イギリスのEU離脱決定……欧州は激しく揺れている。これまでの動向、現在の状況、そして今後の展望について描いた『欧州複合危機』の著者、遠藤乾さんに執筆にまつわる話をうかがった。

──本書を執筆した動機をお教えください。

遠藤:欧州で度重なる危機について、一筆書きしたかった。背景にある問題は、個々の危機についての分析は散見されるけれども、それらをひとまとめに俯瞰し、通底するロジックについて考えた作品が(世界的にみて)少ないというもの。本書の出来は別として、そうした作品の必要はいまもあると考えている。

──執筆中に苦労したことは何かありますか。

遠藤:べたなことで恐縮だが、事実をきっちり抑えること。特にテロですね。調べて書いているうちに次のテロが起きる。直後に一定の情報がメディアに出るが、その後は捜査情報が少しずつしか出てこないので、丹念に追いかけました。

──本書を執筆中のエピソードをお聞かせください。

遠藤:寝ても覚めても、2016年はこの本とともに生きてきた感じ。6月23日のイギリス国民投票を現地で迎えた後は、その日から仕事が殺到し、1時間ごとの〆切や出番で目が回るような状態。その後数週間、どう過ごしていたのか記憶も混乱気味。しかし、その中で考えていたことは、本書の関連する章に盛り込む貴重な糧となった。

──本書と関連するおすすめの本や映画があればお教えください。

遠藤:映画ですか? 最近はスカッとする娯楽映画しか見ていなくて……。イギリスの移民についての『この自由な世界で(It's a Free World...)』(ケン・ローチ監督、2007年)などはどうでしょう。かなり、ブルー(憂鬱)になりますが。

関連する本としては、自書で恐縮ですが、やはり『統合の終焉』を挙げたいと思います。それをベースにしつつ、危機の深化に伴い、私の思考も少しずつ進化しています。

──今後取り組みたいテーマは何でしょうか。

遠藤:十分すぎるほど具体的なテーマに取り組んだ後なので、国家主権など、すこし原理的・概念的な問題に戻りたいと考えているのですが、頭がついていくかどうか。

──本書の読者へのメッセージをお願いします。

遠藤:今回の危機に際しては、できるだけ先入観を外し、アンテナを立てて感度をあげ、あらためて旅をしながら、まず事物を追いかけました。この本では、それを追体験できるようになっており、危機の実態について一通り押さえることができます。同時に、その観察を、これまでの歴史や思想に関する知見と交錯させて、全体としてどのような意味があるのか「考える」本になっています。関心のある人はぜひ手に取ってみてください。

遠藤乾(えんどう・けん)

1966年生まれ。北海道大学法学部卒業。カトリック・ルーヴァン大学修士号(ヨーロッパ研究)、オックスフォード大学博士号(政治学)。欧州委員会「未来工房」専門調査員、欧州大学院大学政治社会学部フェルナン・ブローデル上級研究員、パリ政治学院客員教授、台湾政治大学客員教授などを経て、現在、北海道大学大学院法学研究科・公共政策大学院教授。専攻、国際政治、ヨーロッパ政治。著書に“The Presidency of the European Commission under Jacques Delors”、『原典ヨーロッパ統合史』『統合の終焉』(第15回読売・吉野作造賞受賞)などがある。