前回までのおさらい
バカンス先のタイで原稿を書き進めると断言して旅立ったシモダ氏。しかし、案の定その約束は反故にされた。刊行まで残された時間はあと少し。はたして新刊はどうなる!?
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私たちはいよいよ追いつめられていた。
筆は進まないのに、刊行日は迫り、連動して開催するイベントなどの詳細はすでにまとまりつつあった。さらに頼りの綱だったバカンス執筆もあえなく失敗。もはや逃げ場は無い。
「このままでは間に合わない」。
そんな予感がふと胸をよぎる。
しかし、私たちにはまだ奥の手があった。それはここまで続けてきたカンヅメの進化系、「宿泊カンヅメ」だ。これはもともと筆の進まないシモダ氏が
「温泉いきたーい! いいお湯につかりさえすれば、絶対良い案がでるから」
と言い出したことにはじまる。
「作家ってみんな温泉で書いてるよ。浴衣とか着ちゃって、そういうもんしょ」
今時そんな話はとんと聞いたこともない。あったとしても取材旅行か、大物作家がベストセラーを出したときのお祝いだろうか。しかもシモダ氏は中公どころか、過去に一冊の本すら出したこともないのである。
「ぼく、どっか泊まりがけじゃないと、もうこれ以上進めない!」
嫌なことがあるとダダをこねだすのがシモダ氏の性格でもある。
殺......。ぶっそうな文字が脳裏をよぎるが、あくまでこの場は仕事であることを思いだし、懸命に振り払う。
しかし遅れている執筆にあらためて専念してもらえる、いいチャンスかもしれない。
どこかでそんな裏腹な気もちも生まれていた。そこでさすがに温泉とはいかなかったが、都内でそれらしい和式旅館を予約することにした。それが今日のこの場だ。
確かに効果はあった。
ぶっつづけにおよそ10時間、作業を続けたことで、なかなか進まなかったもろもろの整理も進んだ。また、これまで取りかかれていなかった「タイトル」案についても、ひざを突き合わせ、じっくり話し合うことが出来た。
出てきた案も、さすが天才と言われるシモダ氏である。
『こんな僕でも社長になれた2』や『新・蟲師』など、長年この業界に携わっているが、まったく聞いたことすらない、それでいて、なぜだか売れそうに思えるタイトルばかりだった。
果たして原稿そのものは、どこまで進むことが出来たのか?
それはまた次回、あらためて報告させて頂きたい。
西日がギラギラと差し込み、30度を超える室内で熱中する著者。執筆にふさわしい環境を用意できたことは、一編集者としてとても誇らしい。
ラクレ編集部 吉岡宏
1981年生まれ。ウェブクリエイター。日本一ふざけた会社を標榜する「バーグハンバーグバーグ」代表取締役。家入一真氏のスカウトで2004年にpaperboy&co.に入社、2006年にサイト「オモコロ」を開設し、2010年に起業。多くのネット著名人を従え、徹底して「ふざけた」プロモーションを実施している。代表的な実績として「Honda黙認!お金をもらって車を宣伝するサイト」企画、1.5トンの豆を豪快にぶつけ合う「すごい豆まき 鬼リンピックin東京タワー」イベント、インド人のアドバイスを無視した「インド人完全無視カレー」通販など。雑誌『週刊アスキー』、技術評論社サイトなどで連載中。