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 今週も中目黒のいつもの喫茶店で執筆監視スタート。いつものとおり、最初は雑談から始まる。
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 そして雑談が終わらない。

 私は悩んでいた。もしかしてこの進行を選んだことが失敗だったのではないかと。しかしこれ以上効果的に筆者を追い立てる方法などあるのだろうか。あの『まんが道』でも、歴史に名を残した編集者たちは、こうやって漫画家と闘っていたはずだ。

 いったい、シモダ氏を執筆させるにはどうしたらよいのだろう。率直にたずねる私を前に、彼は口を開いた。

「書いてもらいたいなら、それ相当の仕掛けが必要だとおもうんです。たとえば"人質"なんかどうでしょうか。社員の一人を預かった、返して欲しければ原稿書け!とか。これならしぶしぶ書くかなあ。あとは"爆弾"ですかね。バーグハンバーグバーグに爆弾をしかけた、解除して欲しければ原稿を書け!とか。これ超怖いんですけど(笑)。 あ、でも万が一、爆弾が解除できたらそのあとのほうが怖いかも。まず、めちゃくちゃスネますよね、僕の性格から言って。爆弾事件の後は、さらに筆が進まなくなると思います。だからこの方法は、ちょっとリスクがありますよね。あとは」

 彼はいったん話し出すと止まらない。よくわかっている。
 そして、そもそも何をたずねたのかわからなくさせるのが、彼のテクニックなのだ。

「『はぐらかす技術』という本でも出したほうがいいんじゃないですか......」

 私の口から、つい皮肉が出てしまった。それは聞こえるか聞こえない程度ではあったが。
 しかし獲物を見つけた獣のように、彼の目は鋭く輝くのだった。

「それだ! あとは『生産性をゼロにする技術』とか。確かにネガティブなタイトル。でもなめちゃいけません。さぼってさぼって、結局最後にやるわけですから、労力は二倍以上かかるわけですよ。これは簡単に見えますが、実は」

 やぶ蛇。たとえ皮肉という形であろうと、シモダ氏の心に何か響いてくれれば、と思っての言葉だったが、完全にやぶ蛇だった。

 うなだれる私を前に、シモダ氏は「キノコのクリームドリア」を店員さんに頼んだ。外は30度を超える日に、ドリア。熱いドリアを前に筆はますます遅れるだろう。せめてスパゲッティにしてほしい。

 しかし目次までできているのに、ここまで書かないのにはさすがにおかしい。これではただ中目黒まで呼び出されたあげく、おごっているだけだ。

 かたくなに抵抗する著者を前に、ふと私は「もしかすると書きたくない理由が何かあるのでは」、そう思った。それはトラウマなのか、あるいは話したく無いような哀しい事情なのか。

 そこでドリアに夢中で、視線をずっと厨房へ向けているシモダ氏に思い切ってそのことをたずねてみた。
 すると彼は一瞬驚いた表情を見せ、まるで触れられたくなかった話題のように、ゆっくりと私へ視線を戻した。
 そして彼の口から、確かに執筆するにはあまりにやっかいな、そして致命的ともいえる理由が語られるのだった。
 それは......

 

 「思い出すの、めんどくさい」

 


 あーあ。

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「せめて書いてるっぽいやつ」という趣旨での一枚。とりあえず書く気が無いことだけは伝わる

以上、ラクレ編集部 吉岡

『日本一ふざけた会社のギリギリセーフな仕事術』

シモダテツヤ 
1981年生まれ。ウェブクリエイター。日本一ふざけた会社を標榜する「バーグハンバーグバーグ」代表取締役。家入一真氏のスカウトで2004年にpaperboy&co.に入社、2006年にサイト「オモコロ」を開設し、2010年に起業。多くのネット著名人を従え、徹底して「ふざけた」プロモーションを実施している。代表的な実績として「Honda黙認!お金をもらって車を宣伝するサイト」企画、1.5トンの豆を豪快にぶつけ合う「すごい豆まき 鬼リンピックin東京タワー」イベント、インド人のアドバイスを無視した「インド人完全無視カレー」通販など。雑誌『週刊アスキー』、技術評論社サイトなどで連載中。