6月某日。原稿が進まないシモダ氏に何とか書き進めさせるべく、今週も中目黒でカンヅメを開始。
とはいえ、私たちは二人とも齢30を超えた立派な紳士だ。いきなり「さあ書け、ほら書け」とはならない。紳士たるもの、最初はおたがいの近況報告から入るものである。
先週はどうでした、こうでした。まもなくこんなことがあるんですよ。へー、それは大変ですねえ。ほうほう、そのようなことで。
ではいよいよ......やっぱり雑談!
ふむふむ、わかりましたよ。もうそろそろ............やっぱり雑談!!
そんなこんなで気が付けば既に1時間。この間、キーボードを打つ手にまったく動く気配はない。
実は書かなければならない項目はここまでの1年以上に渡るやりとりを経て、ある程度決まっている。そしてシモダ氏は一度書き始めれば、間違いなく面白い文章を書く。実際、あがった原稿をみて、私は幾度と無くうならされてきた。
しかし毎回のことだが、シモダ氏は乗らないと、書くのを「ピタッ」とやめてしまう。天才と言われるゆえんかもしれないが、毎回、そこをどうにか書いてもらうよう、あの手この手で誘導しなければならない。それも監視係の私に任された仕事なのだ。
そんなことで以下、本日のやり取り。
私「一行だけ、一行だけでいいから書いてください」
シモダ氏「うん、合格! 僕が編集者だったらおそらく同じことを言いますよ」
私「せめてキーボードに手を置いてください」
シモダ氏「内緒にしていたんですが......。つきゆびしまして。しかも指全部(足も)!」
私「5文字だけでいいですから」
シモダ氏「モジ、4コシカシリマセン」
私「何でも良いですから」
シモダ氏「あ、これ『週刊アスキー』の原稿だ」
その他。
「関ジャニが窓の外を通りましたよ。違うかもしれませんけど」
「今、たまたまダラダラしたい時間なんです」
「30分たったらスイッチが入るはず」
まるで宿題を前にしたのび太の言い訳! のらりくらりとは正にこのこと。ああ、この言い訳を原稿にすればどれだけページが進むことだろうか。
完全に絶望に打ちのめされる中、シモダ氏自身、「書く」ということについてどう考えているのか、あらためて聞いてみることにした。すると彼は一瞬目をふせたあと、ゆっくりとこう答えた。
「......僕には「書く」ことしかないんです。実際、今の社会を見渡したとき、その行為を通じてしか、世間に自分の存在を残す、爪痕を残すことなんて出来ないじゃないですか。僕から書くという行為を取ったら何が残ると思います? 何も無いんです」
全部ウソだわー。
続く
このなめきった顔!こんな顔で原稿に臨む著者をほかに私は知らない
*ラクレ編集部 吉岡
1981年生まれ。ウェブクリエイター。日本一ふざけた会社を標榜する「バーグハンバーグバーグ」代表取締役。家入一真氏のスカウトで2004年にpaperboy&co.に入社、2006年にサイト「オモコロ」を開設し、2010年に起業。多くのネット著名人を従え、徹底して「ふざけた」プロモーションを実施している。代表的な実績として「Honda黙認!お金をもらって車を宣伝するサイト」企画、1.5トンの豆を豪快にぶつけ合う「すごい豆まき 鬼リンピックin東京タワー」イベント、インド人のアドバイスを無視した「インド人完全無視カレー」通販など。雑誌『週刊アスキー』、技術評論社サイトなどで連載中。