2026 03/13
まえがき公開

『アフリカ』 はじめに

人口増、鉱物資源など潜在力への注目から、各国が関与を強めるアフリカ。覇権が揺らぐ米国、歴史問題を抱える旧宗主国、進出する中露、地政学的な緊張関係にある中東など、複雑に絡む利害を繙く。アフリカは独立から現在まで、食料難、環境問題、強権化などを抱えつつも、国際情勢の変動にしたたかに対処してきた。その独自の行動原理を読み解く。地域大国エジプトvs.エチオピア、崩壊国家ソマリア、「優等生」ボツワナなどを一望。

『アフリカ――「経済大陸」の行動原理と地政学』の 「はじめに」を公開します。


 
アフリカは本当に広い!

 読者の皆さんはアフリカと聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるだろうか。
 2025年8月から9月にかけて「地図を正そう(Correct The Map)」とする興味深いキャンペーンが各種メディアで報じられた。これは、世界地図にアフリカの大きさを正確に示すことをめざす動きである。広範に用いられているメルカトル地図は、アフリカの本当の大きさを歪ゆがめ、「その重要性を軽視している」として、アフリカの組織「アフリカ・ノー・フィルター」と「スピーク・アップ・アフリカ」がアフリカ連合(AU)の支援を受けて、推進しているのだという。
 ゲラルドゥス・メルカトルが1569年に発表した投影法は、コンパスの方位を直線に保つ、航海に益するなど重要な役割を果たしてきた。他方でこの図法は、極に近い国々は不釣り合いに拡大され、赤道沿いの国々は縮小される。たとえば、グリーンランドはアフリカとほぼ同じ大きさに見えるが、実際にはアフリカの14分の1のサイズにすぎない。
 告発者は、メルカトル地図が、植民地時代の物語を強化し、アフリカを小さく、周辺的で、世界秩序においてそれほど重要ではないものとして描いていると糾弾する。そして、地図の書き換えの必要は、プライドとアイデンティティについての物語の問題であると明確に述べる。地図を変えることは、考え方を変えることでもある。こうした記事で示されているのが、図表1である。
 ご覧いただけばわかるように、アフリカ大陸の広さは、主要な国々の地表面積のほとんどをあわせた広さに匹敵しているのである。

アフリカは本当に若い!

 人口減少に悩むわが国から見ると、人口が増加する地域としてアフリカをイメージする向きも少なくないだろう。実際、アフリカ大陸全体での人口は2022年段階の推計で14億人を超える(国連世界人口推計2022年度版)。しかも、今後人口増加が続き、2030年には16億9009万人に達するという。さらに2050年には24億6312万人、2100年には39 億1348万人に達し、インドと中国を含むアジアの人口規模に匹敵するとも予測されている。アフリカ大陸の人口が世界に占める割合から見ると、22年の17・7%から2030年中には20%を超え、2050年に25・4%、2100年には37・8%にまで達する。こうした現象は「人口革命」とも評されている。

 第6章でも扱う第9回アフリカ開発会議(TICAD9)において、石破茂(いしばしげる)首相が言及したように、アフリカにおける年齢の中央値は19・3歳(25年)であり、日本の49・9歳(同)と比べていかに若いかがよくわかる(図表2も参照)。特に最も若いとされる西アフリカのニジェールでは、平均年齢がなんと15歳である。今後少しずつ年齢の中央値は上昇する見通しとはいえ、現段階でも非常にきれいに人口ピラミッドが構成されており(図表3)、21世紀中に急速な高齢化が進むことは想像できない。

希望の大陸か、絶望の大陸か

 こうした状況に鑑みれば、旧宗主国であるヨーロッパ各国や米国、そして中国、ロシアなど権威主義国家が、アフリカを将来的にきわめて大きな経済市場と考え、関与を強めていくことはごく自然な流れである。このまま順調に「希望の大陸」として進んでいくのか? 爆発的な人口増加は、アフリカの域内に留まり続けるのか? 
実は、爆発し続ける人口が域内に留まり続けることは容易ではない(第1章)。最大の理由は、サハラ以南アフリカが依然として低開発や紛争の頻発状況を脱していないからである。
たとえばサヘル・アフリカ(サハラ砂漠の南側に広がる半乾燥地帯)を中心とした地域では、イスラーム主義勢力などの活動の活発化が見られ、西アフリカを中心に解決困難な課題を抱えている。加えて、地球規模での気候変動は、水資源の減少や砂漠化を招く一方、異常気象による洪水発生にもつながり、新たな対立の火種を生んでいる。教育や雇用機会が十分に確保できないことから、若年層の一部がイスラーム主義勢力に「雇用」されたり、スペイン領カナリア諸島や地中海を経由してヨーロッパをめざし、移動中に船が沈没して多くの命が失われたりするといった「絶望」にも似た状況がある。
 本書では、アフリカを取り巻く各国の状況をみながら、過去、現在、未来をあらためて考えてみたい。その際、本当に広い(!)アフリカの地域をまんべんなく扱うことは困難である。主な対象は、国際連合(国連)の定義におけるサハラ以南アフリカ(サブサハラ・アフリカ)諸国49ヵ国である。筆者が研究対象としてきた、「アフリカの角(つの)」と南部アフリカについては、第4章と第5章で扱う。他方、サヘル・アフリカや中部アフリカなどは随時、近年の特徴的な動きに触れたい。

本書の目次構成

 本書の目次構成は、以下のとおりである。
 第1章では、人口増加と経済市場の拡大や人の移動と食料問題など、今後の可能性と
課題を説明する。
 第2章では、政治独立後の歴史的経緯をおおむね時系列にたどりながら、国家と政治体制がどのように変容してきたかを見る。その際に「外向」(extraversion)をはじめ、本書の基本的な視座となるいくつかの有力な議論を紹介したい。
 第3章では、「薄い覇権」(thin hegemony)という概念を援用し、サヘル・アフリカなどを事例としながら、主要国の関与がどのように変容してきたかを描く。
 第4章では、「薄い覇権」に特徴づけられる、不安定なアフリカの角という地域の地政学を描く。きわめて多くのアクターが関与する地域であるため、各国の関係性を読み解く見取り図や、この地域で活動するイスラーム勢力について解説する。
 第5章では、南部アフリカの歴史的背景と特徴を考慮しながら、特にボツワナに着目する。1966年の独立以降、一度も政権交代を経験してこなかった。だが、2024年の選挙で政権与党が泡沫(ほうまつ)政党になったのはなぜか。変容の背景を探る。
 第6章では、冷戦終焉(しゅうえん)以降の日本の対アフリカ外交政策の変遷と現状を確認する。
とくにTICADや国連平和維持活動(PKO)への自衛隊派遣などを中心に検討したい。
 アフリカには、時々刻々さまざまな動きがある。本書が、読者の皆さんにこれからのアフリカを考える上で、一つの視座を提供できればうれしい。

(まえがき、著者略歴は『アフリカ』初版刊行時のものです)

遠藤貢(えんどう・みつぎ)

東京大学大学院総合文化研究科教授。1962年秋田県生まれ.東京大学教養学部国際関係論分科卒業。同大学大学院総合文化研究科国際関係論コース修士課程修了。英ヨーク大学大学院南部アフリカ研究センター博士課程修了。DPHil.(南部アフリカ研究)取得.東京大学教養学部助手。同大学大学院総合文化研究科助手・助教授を経て現職.著書に『崩壊国家と国際安全保障』(有斐閣、猪木正道賞〔正賞〕受賞)など。