2025 11/05
著者に聞く

『英作文の技術』/澤井康佑、マーク・ピーターセン インタビュー

日本語の英訳はいつだって難しいです。それはわかりやすいメソッドを身につけていないから。
「渋谷駅はどこですか」というような定型文は学校で習って丸暗記で覚えているとしても、「政府は農民に重税を課した」というような込み入った文章を英訳するとなると、もうお手上げです。
そんな悩みに応えるのが『英作文の技術――“3世界・24文型”で伝える』です。著者の澤井康佑さんとマーク・ピーターセンさんにお話を伺いました。

――そもそもなぜ「英作文」についての本を執筆しようと思ったのですか。

澤井:英文和訳の作業においては、「5文型」という、英語を日本語に移し替えるための明確なシステムがあります。
たとえば、
  God granted her a second chance.
という英文を和訳するときは、この文が第4文型だと見抜けさえすれば、第4文型の文は「~は…に―をV」と訳すものなので、「神は彼女に2度目のチャンスを与えた」と和訳できます。
しかし、和文英訳においては、そのようなものがないのです。この結果、ほぼ全ての日本人の英作文学習は、理論不在のまま、具体例を積み上げるだけのものになってしまっています。当然、モヤモヤ感がぬぐえない。
この状況をどうにかして打開し、英作文全体をカバーする、決定的な指針を導入したいと思ったのが、そもそものきっかけです。

――本書執筆に当たってとくに工夫したことはなんでしょうか。

澤井:まず、2つのことを特に意識しました。はじめに、少しでも明確な、パターン化された世界を生み出すということ。つぎに、できることなら、その世界を目で見てわかる形で提示したいということです。
この結果、到達したのが、本書冒頭に掲げた“3世界、24文型の一覧表”です。

そしてもう1つ工夫したのは、「英和辞典が、実は英作文の際に極めて有効なツールである」ということを、具体例とともに伝えることです。
動詞をどのように用いるべきかという情報は、英和辞典には山のように盛り込まれています。本書では、その情報の読み取り方を随所に盛り込むようにしました。

ピーターセン:私は日本語で何冊も本を書いてきました。しかし、今でもたとえば「余裕を持って出かける」と日本語で言いますが、ともすれば「ゆとりを持って出かける」と言ってしまう可能性も十分に高いです。それは、「余裕」と「ゆとり」の基本的意味の違いによる使い分けがあるのに、英語の観点からはその2つの言葉が全く同じ意味を表しているように見えるからです。
和文英訳にも似たようなことがあります。正確な語彙を正しく選択するのは大変です。言おうとしていることはよく分かるけれども、典型的なカタコト英語になってしまうということは多々あります。
それらについてネイティブの感覚から説明することが出来たというのは、嬉しいことでした。

また、「Mark's Answer」 は澤井さんの質問に答えるというかたちで執筆しましたが、その質問には、自分だったらまったく思いつかないような疑問もありました。日本語を母語とする人しか持たない疑問で、新鮮でした。

――最後に、とくに読者に伝えたいがあったらお教えください。

澤井:何と言っても“3世界、24文型の一覧表”を暗記していただきたいということに尽きます。
そのうえで、今後の英作文の作業では、英和辞典を徹底的に活用して頂きたいということです。そのためには、本書をぜひとも3回くらいは繰り返して読んでいただきたいと思うのです。

ピーターセン:現在の“学校英語”とは違って、多くの日本人が実際の生活や仕事で使う英語では、電子メールのような「書くこと」が、「しゃべること」よりも圧倒的に必要なはずです。その人たちが、ある程度自信を持って「前よりも書けるようになった」と嬉しく思ってくれたらと思います。
また、いまでは機械翻訳も普及してきましたが、AIにはとくに和文英訳は難しいです。「鳥」が一羽なのか複数なのかという単数複数のちがい、「男」と言った場合に「あの男」なのか「その男」なのかという問題などは、AIであっても判断できないところがあります。たとえ機械翻訳で英訳文を作れたとしてもそれをチェックする英語力を養ってほしいです。

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澤井康佑(さわい・こうすけ)
1972年,神奈川県生.慶應義塾大学文学部卒業.これまで予備校,中学校,高校で英語を教える.
主著『英文法再入門』(2021,中公新書),『中学英語「再」入門』(2022,中公新書)
『一生モノの英文法』(2012,講談社現代新書),『一生モノの英文法 COMPLETE』(2015,ベレ出版),『マンガでカンタン! 中学英語は7日間でやり直せる。』(2018,学研プラス),『新・英語の構文150』(2023,美誠社)ほか
 
 
 

マーク・ピーターセン(Mark Petersen)
1946年,アメリカ・ウィスコンシン州生.コロラド大学で英米文学,ワシントン大学大学院で近代日本文学を専攻.明治大学名誉教授.
主著『日本人の英語』(1988,岩波新書),『続 日本人の英語』(1990,岩波新書),『心にとどく英語』(1999,岩波新書),『実践 日本人の英語』(2013,岩波新書),『英語の壁The English Barrier』(2003,文春新書),『表現のための実践ロイヤル英文法』(2006,綿貫陽共著,旺文社),『英語のこころ』(2018,集英社インターナショナル)ほか