- 2025 08/25
- まえがき公開

英作文は難しい。学校ではあまり習わず、大学入試や各種試験での出題も多くはない。そのため、訳してみてもそれが正しい答えなのか、よく分からない。しかし、メールでも会話でも、相手の言っていることを理解できても、返事ができなければ困る。和文英訳も必須の能力なのだ。本書は英作文の型を「3世界・24文型」に分類、どれに当てはまるかを見抜いて英訳する方法を伝授する。自在に英語で表現する確実なメソッドとは?
『英作文の技術 “3世界・24文型”で伝える』の「はじめに」を公開します。
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はじめに
中学・高校での英語の学びは,大半が英文和訳,英文解釈に関係するものです.つまり,読解力とリスニング力の養成を主眼とした授業が展開されています.理解できないものをアウトプットすることはできないので,まずは与えられた英文を理解できるようになることを目指す,このような方針は大まかには正しいといえます.
ただ一方で,和文英訳の力(書く力,話す力)が極めて貧弱なまま高校を卒業することになるという,致命的な欠陥を抱えているという点もまた,日本の英語教育がもつ否定しがたい一面です.たとえば,次の2文は英訳できるでしょうか.
⑴ 政府は農民に重税を課した.
⑵ 両親は私が車を買うのを思いとどまらせた.
いずれもシンプルな文,そして身近な内容の文です.それなのに,スムーズにはいかないのではないでしょうか.⑴は和英辞典を引くことで,「課す」がimposeだとわかったとしても,「農民に」と「重税を」の情報をどの順で,そしてどのような語句を添えて(あるいは添えないで)英訳すべきかが不明です.⑵も仮に,「思いとどまらせる」がdiscourageだとわかったとしても,My parents discouragedの後が簡単には続かないのです.つまり「私が車を買う」にあたる内容を,どのような形にして後ろに続けるべきかで迷うのです(この2文の英訳は本書の中で示します).
このような状況にあるため,英作文の必要に迫られた人は,高校卒業後に本格的に勉強を開始します.ところが,英作文の演習書や英会話の教本に挑んだとしても,なかなか読み通せません.どうしても挫折してしまうのです.意欲はあるのに,なぜこのようなことになってしまうのでしょうか.
これについては,以前,ある大学教授と歓談していた際に,その方がもらした次の言葉に原因を探ることができそうです.
英作文の指導をしていて困るのは,明確なメソッドがないことです.英文和訳の指導では,「5文型」というものがあり,これが理解のための筋道になりますが,英作文ではこれに相当するものがないので,どうしても単純に具体例を積み上げていくだけの指導になってしまいます.和文英訳全体を貫く,決定的な道標のようなものがあればいいのですが…….
確かに,英作文の際には「5文型」という頼るべきシステムがあります.一見して意味の取れない文に出会った場合に,文型を特定することにより,文全体をどこからどう訳していけばいいかの方針がたちます(これについては,「オリエンテーション」で説明します).
ところが和文英訳の際には,「まずはこれを考えればよい」「これさえ特定できれば,文全体の大まかな構造が決まる」というような発想が持ち込まれることはまずありません.和文英訳という作業の全体を覆う,理論・定理のようなものが見当たらないのです.
本書はこのような状況に風穴を開けるために生まれました.実は,ほぼすべての英作文の作業は,“3世界”の枠組みの中で進めていくことができます.その3つの世界とは,次の3種類です.
1. “名詞と動詞の世界”
2. “イコールの世界”
3. “「SV+文内容」の世界”
本書ではまず,それぞれの“世界”が具体的にどのようなものかを紹介します.そして次に,各“世界”の中に存在する文の型を,一つひとつ丁寧にマスターしていきます.
以上のプロセスを経ることにより皆さんは,これまでに見たことがなかった視点から英作文の作業を把握できるようになります.そしてこの視点に導かれるままに,和英辞典と英和辞典を駆使しながら,日本語文を鮮やかに英文にしていくことができるようになります.また,本書を仕上げれば,既存の和文英訳教本,英作文の参考書が,着実に読み進められる本に変わります.
新しい世界観を獲得することにより,不可能だったことが可能になるというのは,とてつもなく嬉うれしいものです.ぜひこの歓喜を味わってください.
本書の内容に難しい記述はありません.冒頭から順に読んでいけば,確実に理解できます.そして,本書の内容を吸収し終えたときには,皆さんは「和文英訳全体を貫く,決定的な道標」を我が物とした状態になり,英語発信力が劇的に変化することを固くお約束いたします.どうぞ大きな期待とともに最後までお付き合いください.
澤井康佑
(はじめに、著者略歴は『英作文の技術――“3世界・24文型”で伝える』初版刊行時のものです)