2024 03/26
著者に聞く

『英語の読み方 リスニング篇』/北村一真インタビュー

音声英語に接し、聴き取れないからと英語習得を断念したことはありませんでしょうか。どうしたら聴き取れるのか。「一定の速度で英文が読めれば、おのずとリスニングの力も上がる」と北村一真さんは言います。大ヒット『英語の読み方』の姉妹編として、『英語の読み方 リスニング篇』を著した北村さんに、執筆の背景を伺いました。

――「読み方」なのに「リスニング本」、本書のコンセプトは意外でもありました。執筆のきっかけは何でしょうか。

北村: 自分自身の学習体験から、リスニングの少なくとも一部はリーディング、つまり、読む力と密接に関係しているという確信がありました。一方、指導している大学生や拙著の読者の方々の声に耳を傾けると、そういった考え方をしている人はまだまだ少数派であるという現実が見えてきました。そこで、読む力と聞く力の連続性を意識できるような本があってもよいのではないかと考えたのがきっかけです。また、文法や単語をしっかりと勉強して読む力をある程度身につけた人が、すでに持っている知識を最大限活用してリスニングに取り組んでいけるような教材はこれまでに少なかったと思いますので、そういう本を作りたいという思いもありました。

――「まずは読む力」→「スピーディに読む技法」→「丸覚えで次のステージへ」→「アドリブ力を高める」と、階段をのぼるような目次が本書の魅力です。思い入れのある箇所があれば、教えてください。

北村:本書のポイントは英語を読む時にやっている思考のプロセスを聞く時にも応用するということですから、それを可能にするための方法論を述べた第3章「スピーディに読む技法」は核となる部分ですね。また、話し言葉特有の現象を扱っているという点では第6章「アドリブ力を高める」もユニークな内容になっていると思います。

――本書に登場する英文(ニュースや映画予告編、首相・国王のスピーチ)は、ほぼ全てインターネット上で視聴できる動画や音声の書き起こしです。なぜ英語動画を教材に使われたのでしょうか。

北村: やはり、教材用に作られたものでなく実際の時事英語や娯楽作品に触れたいという思いを持つ学習者は多いようです。大学で講義する際も、話題のニュースを報じた動画や映画のワンシーンなどを紹介すると学生さんたちは興味を示してくれます。こういった経験から、英語話者向けに作られたオーセンティックなものを題材にすることで、読者のモチベーションを高める手助けができるのではないかと考えました。同時に、そういった「本物」に取り組む上でも、これまでに学んできた文法や単語の知識はちゃんと生きるということを体感してもらいたいという狙いもありました。

――北村先生が英語を研究テーマに選んだ理由をお聞かせください。また、長年お取り組みになる中で、「英語は面白い!」と感じるところはどこでしょうか。

北村:英語を本格的に学ぼうと考えたきっかけは大学受験時代の英語学習です。理屈に基づいて文法を理解し一定の語彙力をつけることで、英語の文章が読めるようになるということを実感し、普段、感覚的に使っていた言葉に論理的ともいえる構造があることに特に興味を惹かれました。「英語は面白い!」と感じるポイントは無限(笑)にありますが、たとえば、第2章のコラムで少し紹介したように、英語は世界各国で用いられる中で現在も多様に変化していっており、そういった変遷を追いかけて観察するのも英語研究の一つの魅力と言えるかもしれません。

――各章の最後に、「独習のコツ」があるのも嬉しいポイントでした。本書のような英語独習本として、ほかに興味深いものがありましたら、ぜひ紹介してください。

北村: 本書の姉妹編である『英語の読み方』(中公新書)や本書の第5章で言及した『英文読解を極める』(NHK出版新書)は、ともに新書ではありますが、独習のためのヒントをできる限り取り入れた作りになっていると思います。もう少し基本レベルから学びなおしたいという人には、倉林秀男『バッチリ身につく 英語の学び方』(ちくまプリマ―新書)や田中健一『世界が広がる英文読解』(岩波ジュニア新書)などがおススメです。

――最後に、本書をこれから読む読者へのメッセージをお願いします。

北村:日本には、ある程度英語を読んで理解することはできるものの、リスニングは大の苦手という人がそれなりにいると思います。本書はまさにそういう人に向けて書かれています。本書をヒントに、これまでに学んできたものをきちんと生かしながら、リスニングの学習に取り組む方法を見出してもらえれば幸いです。

北村一真(きたむら・かずま)

1982年生れ。2010年慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得満期退学。学部生、大学院生時代に関西の大学受験塾、隆盛ゼミナールで難関大学受験対策の英語講座を担当。滋賀大学、順天堂大学の非常勤講師を経て、09年杏林大学外国語学部助教、15年より同大学准教授。著書『英文解体新書』『英文解体新書2』(ともに研究社)、『英語の読み方』(中公新書)、『英文読解を極める』(NHK出版新書)、『文法知識と読解力を高める』(左右社)。共著『上級英単語 LOGOPHILIA』(アスク)など。