- 2021 03/19
- 著者に聞く

英語はむずかしい、英語がわからない、英語は苦手だ、もうダメだ、と思ったまま卒業してしまった人たちに、再入門の第一歩として読んでほしいのが『英文法再入門』です。本書の著者で、予備校、中学校、高校で長年英語を教え、苦手意識から救ってきた澤井康佑さんにお話を伺いました。
――本書の執筆経緯はどのようなものだったのでしょうか?
澤井:新書というコンパクトな体裁の本でありながら、英文法ひいては英語学習の、真の入門書になるような作品を作りたいと考えました。
――これまでの新書には、英文法の入門書として理想的なものがなかったということでしょうか?
澤井:英語関連の新書で名著は多いのです。ただ、その大半が英語表現に関するものや、英語に関する読み物などです。
「英文法」とタイトルに入っているものでも、英文法に関する小ネタ集といった感じの作品が多く、これはこれでもちろん価値があるのですが、正面切っての「文法書」はほとんど見られないのです。
――執筆の際には、特にどのようなことを意識しましたか?
澤井:やはり何よりも、真の入門書にする、ということです。
入門書は、門の外側にいて戸惑っている人をきちんと門の内側に引き入れるだけの力がなければなりません。そのためには一定の深さが必要になります。表面をなぞるだけの広く浅い本は、慰めにはなっても救いにはなりません。入門書には、迷える初級者を救うという絶対的な使命があるはずです。
――本書を読んでみて感じるのは、「2つの軸」があるということです。
澤井:多くの人が英語を苦手としていますが、苦手である以上、そこには当然のように原因があります。その原因を冷厳に見つめることこそが、入門を果たすための最初の一歩であるはずです。
原因は大きく2つあり、1つは「英語が日本語とは異質の外国語であること」で、もう1つは「主に中学・高校での英語教授法が不完全であること」です。本書は、この2つの点を意識した記述にしてあります。これがまさに本書の主軸です。
1つ目の点については、「常に英語と日本語を比較する」という手段を取りました。これが他の文法書には見られない、本書の特徴になっているかな、とも考えています。
――日本語と比較しながら学ぶと、一気に学習が楽しくなるものですね。第2講の英語のbird,fish,insectと、日本語の「鳥」「魚」「昆虫」の比較論など、たいへん興味深かったです。
澤井:ありがとうございます。読んでくださった何人かの方からも、同じご感想を頂きました。
学問の世界で入門を果たすためには、当然、学習者に一定の負荷がかかります。ただ、辛いだけ、キツいだけでは学習は進みません。知的好奇心に訴えかける何かが盛られていることも、理想の入門書に求められる条件だと思うのです。
――もう1つ印象的だったのは、いわゆる「5文型」についてです。本書ではこの5文型理論の存在意義を明確に示されています。その効果の確かさと、これを“発明”した日本人の凄さについても触れられていますね。

澤井:ええ。実は今日、2冊の本をお持ちしました。ご覧ください。(冒頭の写真)
左の本は、明治・大正期の英語学者であり、受験参考書の開拓者といわれる南日恒太郎(なんにち・つねたろう、1871-1928)の主著『英文解釈法』で、英文解釈の教本です。
右は、昭和期を中心に、主に駿台予備校講師として活躍し、多くの英語教師にも大きな影響を与えた伊藤和夫(いとう・かずお、1927-1997)の主著『英文解釈教室』です。この本は、今も英文解釈のバイブルとして圧倒的な存在感を示しています。
南日の本の解説は、単語やフレーズの解説が中心で、文法に関する決定的な理論のようなものが見あたりません。一方の『英文解釈教室』では、はっきりと5文型理論が導入されています。英文を5つの型のどれかに特定することにより、その意味をあぶり出す、という手段が取られているのです。
そしてその後も、5文型理論に取って代わるだけの価値、普遍性をもった理論は生み出されていません。私は、日本語を母語とする人が英語を理解するためのツールとして、この5文型理論は“終点”だと思っています。
――ただ、今でも、高校で5文型理論を学ぶ際に、大半の人はその存在意義を感じていないように思います。「何となくみんな習うけど……」といった感じです。
澤井:本書の執筆動機はその点にもあります。つまり、みなさんが何気なく学んだ、あるいは学んでいる5文型というものは、とてつもなく大きな価値があるものだということを、少しでも多くの人に知ってもらいたいのです。
本書はタイトルが『英文法再入門』であり、装いは「大人の学び直し」ですが、今まさに中学や高校で5文型を中心とした英語学習を進めている中学生、高校生の方にも読んで頂きたいと考えています。この1冊を通過すれば、学校の英語学習の負担が大きく減り、また英語の勉強が随分と楽しくなるはずです。
――最後に、今後に向けての抱負をお願いします。
澤井:今日のインタビューでは、日本人が“発明”した5文型理論の素晴らしさについて触れましたが、幕末以来、これまでに日本が生み出してきた英語関連の伝統、遺産は凄まじいものがあります。そこにスポットを当て、私たちが当たり前のように受け取っているものの素晴らしさを広く伝える作品を書ければ、と願っています。