2018 06/08
著者に聞く

『カラー版 ふしぎな県境』/西村まさゆきインタビュー

群馬、栃木、埼玉が接する「柳生の県境」にて

『カラー版 ふしぎな県境―歩ける、またげる、愉しめる』を刊行した西村まさゆきさんにお話を伺いました。

――そもそも西村さんが県境に興味を持ち始めたのはいつ、どうしてですか?

子供のころから地図が好きでした。保育園のころ、親が中学生のときに使っていた地図帳を見つけて、日本地図を模写したりしていました。小学校にあがると、地図帳に載っている国旗を、消しゴムはんこでつくったり、地図帳と郵便番号簿にのってる地名から難読地名をさがしたりしてあそんでいました。地図にまつわるいろんなことに興味があったんだなとおもいます。

県境に興味をもちはじめたいちばん最初は、上京してからで、東京ローカルの天気予報に出てくる関東地方の地図をみたときです。ふと、群馬、栃木、埼玉、茨城の四県が一点でつながっているところがある……と気づきました。おおざっぱな地図だと、茨城県が接近していて、四県境のように表現されているのです。

四つもの県が接近しているところって、どんなふうになっているんだろうと、気になって、当時サービスを始めたばかりのWebの地図サービス(マピオンだったかな?)で、その場所を拡大して確認してみると、三県境がふたつ接近しているということがわかったんです。いわゆる「柳生の三県境」ですね。

それから、ふしぎな形の県境を、Webの地図サービスで探すのが趣味になって……今にいたる。という感じです。

――県境の魅力はどんなところにありますか?

越えると、自治体名から条例まで、その地域を構成するすべての仕組みが変わる境界が、そこに存在している……という魅力でしょうか。目に見えない線が、そこに存在しているという。ARっぽい楽しさ……伝わりますかね。ちょっと自信ないんですが。
また、ふしぎな形の県境はなぜそうなっているのか、実際に現地に赴くと、そういうことだったのか、と納得するような話が聞けたり、逆になんでそうなったのかわからないということもあるんですが、そういった、なんでもないことにもそれなりの由来や歴史があるというのが興味深いですね。

――今回の本の執筆に当たっては、同じところに何度も行ったりとか、山登りとか、いろいろ大変だったと思いますが、一番の苦労はなんですか?

苦労というか、山登りがほんとうに大変でした。ただ、県境って山の中にあることが多いんですよね。山登りさえすれば、行くことができる三県境はいっぱいあるんですが。

あと、書籍にもちょっと書いたのですが、車の免許を持っていないというのが大変ですね。公共交通機関で行ける、やさしい県境ばかり行っていますが、そろそろ免許取らないとダメでしょうか。

大変な山登り

――とくにお薦めの県境や好きな県境はありますか?

すきな県境は、街の中にある県境がすきですね。先日、埼玉県和光市と東京都練馬区の県境、白子川に沿ってかなり入りくんだ県境を見に行ったんですが、普通の住宅地なのに、県境を境目に街の雰囲気が変わっていたり変わってなかったり、県境をたどると川跡みたいな道があったりして、とてもおもしろかったです。

秘境にある県境もいいのですが、こういった、まちなかにある県境は境目のわかるものがいろいろあっておすすめです。

――今後は、どんなことをしてみたいですか。

県境に限らず、区境や市境、逆に国境まで、境目を見に行くという活動は続けたいと考えています。そのうち、サハリンの旧国境を見に行きたいですね。

――読者、とくに若い人々に、ひとことお願いします。

私はたまたま地図がすきで、県境に行くのが趣味になったんですが、県境にかぎらず、日常のいろんなところにおもしろいものはたくさんあるとおもっています。

どんなことにも、一歩たちどまって、どうしてだろうとか、なぜなんだろうと考えると、いろんなことがおもしろくみえてくるとおもいます。

今後、なんでもおもしろがったり、たのしんだりできる、そういう陽気な⼈が、どんどんふえるといいな。と勝⼿に考えております。

本書刊行に至るまでの苦労話は、「デイリーポータルZ」にも「自分の本が印刷され製本されているところを確認してきた」「新書―テーマ・タイトルをどう決めるのか」として掲載されています。あわせて御覧下さい。

西村まさゆき(にしむら・まさゆき)

1975年,鳥取県生まれ.イッツ・コム「デイリーポータルZ」など,主にインターネットサイトで,地図や地名,県境など地理に関する記事や,国語辞典に関する記事等を執筆.
著書『「ファミマ入店音」の正式なタイトルは「大盛況」に決まりました。』(笠倉出版社,2016),『鳥取「地理・地名・地図」の謎――意外と知らない鳥取県の歴史を読み解く!』(共著,じっぴコンパクト新書,2015)ほか